カタパルト・ゴムが一律の場合は、一義的にサイズすなわち機体の重量で獲得高度が決まることは前節で延べました。ですから高度を稼ぐためには、小さく軽く作ればいい、まさにその通りですが、ただ軽ければ良いかというと、そうはいきません。
軽く、抵抗の小さい機体が高く上るのです。
軽量であることは、パチンコ・ゴムによる加速度が大で、高度をかせぐための第1の条件ですが、ムダな抵抗で貴重なポテンシャル・エネルギ−を損じないことが、第2の条件なのです。
中学校の教科書にも載っている運動方程式によると、ある初速で真上に打ち上げられた物体の到達高度は空気抵抗を考えない場合、次式で与えられます。
S=Vo t−1/2gt**2 ・・・・・・ (1)
ここでSは到達高度、Vo は与えられた初速、tは経過時間、gは地上での重力の加速度で9.8m/(
秒)**2です。
さて、このグラフをじっとにらんでいるといろんなことがわかってきます。まず第1はあたりまえなことですが、物理学はウソをつかないということです。
重くて初速のつかない大型機に高度を要求するのがムリなことがすなおに実感できます。
100Km/hくらいの初速では空気抵抗なしでも高度40mに達しないのですから。
次に空気抵抗による高度のロスをいかに低く抑え込むかが重要課題ですが、このことは後まわしにして、いっとき中学生のむかしに戻った気で、(1)式の周辺のオサライをしておきましょう。
- (a)到達高度は初速できまる。
- (b)初速はカタパルトできまる。
- (c)加速度はカタパルト・ゴムのパワ−と、機体プラス、ゴムの重量の比(機体の重量だけではない)できまる。
- (d)加速度はゴムのパワ−の平方根に比例する。すなわち、初速を2倍にするには、パワ−を4倍にしなければならないということ。
- (e)到達高度は初速の2乗に比例する。けっきょく、高度はパワーに比例するという簡単なこと。
以上を冷静に考察してみると、ゴム動力利用機の高度をきめるのはプロペラ機もパチンコ機も同じ原理、プロペラ効率や空気抵抗を別にすれば単純に機体重量とゴム重量の比率だけだということがわかります。
ためしに想像力を働かせて、F1G(ク−プ・ディベ−ル)級の10グラムのゴムで、F1G級80グラム、R級110グラム、F1B級230グラムそれぞれの機体を飛ばした場合の到達高度を想定してみて下さい。
さて、PLGの発射速度がどの位の値になるか興味のあるところですが、実測してないので正確なところはわかりません。
しかし、小型機では、60m以上の高度に達している実状速いものではからみて、150Km/hかそれ以上に達しているだろうことが想像できます。
しかし、3グラムの軽量機でも200Km/hを超えるというのはどうでしょうか。
小生はむかし、機体重量に対するゴム重量の比を極限にまで高めて行けば、音速にまで近づけそうに考え、その場合は加速時の特大gに堪えるために金属性の機体が必要かなど空想したこともありますが、近ごろはさすがに音速まではダメそうなことがわかってきました。
理由のひとつは、ゴムの収縮時の分子間マサツ、すなわち内部抵抗の問題で、ひとつはゴム収縮時のゴム自身の空気抵抗です。石井式スーパーPLGでは、いまのところ、取越し苦労にすぎませんが。
さて、問題は空気抵抗の削減策です。
PLGを扱って、仕事といえば抵抗をへらす作業とあとはパターン調整しかありませんが、抵抗をへらす作業というのは、手間さえいとわなければじつに簡単なのです。
というのも、このためのセオリーがもう解り切っているからで、次の3点だけです。
たったこれだけです。PLGの胴体などはただの棒ですから。どう作ったところで抵抗になりようがありません。主翼の高速時の抵抗をどう減らすかだけが勝負です。
(a)の翼厚の問題では、小生はほとんど全機5%厚としています。
翼型は滑空のところでまた触れますが、下面の平らなハンドランチ翼型TAMA5300を標準とします。
6%翼型えば、TAMA6300などにすると、目に見えて高度が低下するのがわかります。
じつは、純粋に高度だけのためなら、より薄翼、例えば4%とか3%とかのほうが良く、断面型も上下対象翼のほうが良いのですが、滑空ではいずれも不利になります。
また、高速直線上昇のためには、強度のほかにとてつもない高精度が要求されるので、あまりの薄翼は考えものです。
(b)のハイポイントの後退は、実機の層流翼と同じ思想です。打ち出し速度が秒速40mにも達するスーパーPLGでは、レイノルズ数も10数万の値になるので、立派に層流翼効果が期待できるのです。
高度だけのためなら、ハイポイントは30%より40%が良く、50%なら更によいのです。ただし、滑空性能の法は、そのぶん悪くなります。
ですから、翼型をどういじっても滑空が良くならない5グラム以下の小型機・超小型機には、滑空を捨てて、思い切った超薄型層流翼を験してみるのも面白いと思います。
ただし、あまりに速すぎ、高すぎて、飛ばしている本人が、一発で見失うことがないかどうかは保証できません。
PLGより大型のHLGでは、ハイポイント25%あたりに上昇と滑空の良いところがあるようですが、より小型のPLGでは、メリットがありません。
上昇はもちろん悪く、かといって滑空が良くなるわけでもないのです。
強いていえば、高度よりも滑空に期待するほかない大型機に、多少のチャンスはあるかも知れません。
(c)の翼表面の平滑化。これが最重要事項で、高速上昇を保証するカナメとなります。
翼の平滑度については、ちょっと言葉ではいえませんが、ハエが止まったら滑べるくらい、といっておきましょう。
実験してみればすぐわかることですが、表面の仕上げの異なる2機を用意して、弱いパチンコ・ゴムで軽くはじいてみれば、その手ごたえの差がわかります。
荒い仕上げのほうは、なんとなくグズグズと重く、鏡面仕上げのほうは、ピョンと勢いよく跳び出します。
比較的低速度の射ち出しでそうですから、境界層のごく薄くなる秒速40mの高速では、境界層マサツによる抵抗の差は甚だ大で、到達高度は大差となります。
ただし、翼表面の平滑化の効果も、上昇の終段滑空に入ろうとする直前あたりまでで、滑空速度ではザラザラな表面のほうがむしろ抵抗が少ない可能性はあります。
PLGの滑空レイノルズ数1万数千の空力世界では、境界層は相当な厚さに生長し、乱流効果を生み出すにはそれなりの表面粗さが必要でしょうが、低速、層流ハクリの空力域でツルツルの表面が滑空に良い筈はありません。
しかし、高度のためにはそんなことはいっておれない、というのが実情です。
速度差がヤケに大きいPLG世界には、ほかにも高速層流域→乱流域→低速層流ハクリ域と3つの空力域をわたり歩くPLGならではの特徴的な現象もあって、このあと釣合と安定のところでとりあげることにします。