〔求む!…名著の著者〕


 バードウォッチングなどという洒落たことではないのだけれど、公園のベンチで野鳥を観察するのが日課だった時期がある。本音を言えば、探鳥の振りをして、とりとめもない考え事をしていただけの話。未だに、知っている鳥の名は十幾つかしかない。
 駄文を書き散らす、いわゆる売文業に携わっていた時代があるので、一応書物には関心がある(というコトにしてある)。ここ数年の新刊書は、ほとんど読んでいないのだが、それにつけても模型飛行機の良く出来た本があればイイなぁ…と常々思っている。もちろん良い本は種々あるし、それぞれは名著だ。が、今ひとつ具体性に欠けていると言うか、必要な時にひっぱり出して参考にしたり、暇な時には頁をめくって拾い読みをしたり、といった読み方が出来にくいと思う。(別段、現在ある本をけなしているワケではない。為念)

 ここに一冊の本がある。『最新・模型飛行機の事典(渡辺敏久著・岩崎書店)』、ハードカバーのしっかりとした装丁で、本文256頁+索引。著者は、日本航空協会訓練国際部航空課長・国際課長という要職に就く傍ら、文部省のグライダー(実機)指導者講習会講師・同省模型飛行機指導者講習会講師、模型飛行機競技連盟理事にも名を連ねていた人だ。
(無闇に漢字が並んだものだ!)
 目次を見ると、〔理論篇〕〔プロペラ篇〕〔動力篇〕〔操縦篇〕〔機体篇〕〔部品・材料・キット篇〕〔附録〕〔索引〕に分れている。〔プロペラ篇〕以降は、理論とともに、具体的な工作法などがかなり詳しく紹介されているのが特徴で、(無学な筆者には理解不能な)数式等も書かれてはいるが、それを読み飛ばしても肝心な要件は理解出来るよう配慮されている。単簡だが分りやすい図表が多いのも特徴で、文字だけの頁はほとんど無いと言ってもいい。つまり、(良い意味で)絵本的な要素が強く、また箇条書き的構成でどこからでも読めるのが嬉しい。一寸した事を知りたい時、長い文章を読まなくてはならないのでは、事典の名が廃る。
 とまれ、〔機体篇〕の「ハンド・ランチ・グライダー」の項を覗いてみよう。
    『手投げグライダーのことであるが…/アメリカにおいて発達し、ここ10年ほどの間に急速の進歩をと
    げ…/又この調整法及びその理論は、現代フリー・フライトの基本原理となりつつあり、特にガス・フ
    リーはその影響をもっとも強く受けている』、と始まっている。
 「構造」については、
    『たいてい一枚板で翼を作り…/胴体は比較的丈夫な硬木を用いる』。
 「設計方針及びデータ」では、
    『(曳航)グライダーとは異なり上昇及び沈下の2つの面を考えなければならない。/A,機体→(以
    下抄訳)a,投げ手の技術と体力に見合った大きさ、b,抵抗の減少化、c,小迎角で低抵抗の翼
    型、d,薄翼、e,機体表面の平滑化、f,主翼強度の確保』が上げられている。
 「調整と飛行」では、
    『(抜粋)…これは旋回において釣合が保たれている。/この調整あればこそ上空へ投げ上げても失
    速せずに…/なおこの旋回をさせる場合方向舵を使って旋回させようとすると(中略)模型家はやた
    らに方向舵を使いたがるから注意が必要である。/翼の取付角を0〜0として重心を後退させ、旋
    回性を強めると上昇は直線的傾向を帯びてくる。』傍らに、旋回、宙返り、らせん、垂直の各上昇法
    のイラストが載っている。
 隣の頁には、「H,Lグライダー工作の要点」という表組があるので、内容を要約しよう。
    『翼幅⇒22〜50p/主翼々型⇒下面の平らな、前後の尖った、翼厚4〜5%、HP25〜40%
    /尾翼々型⇒同前、4%前後、HP30〜50%/主尾翼取付角⇒0度/翼面荷重⇒4〜15g
    /sqdm/到達高度⇒一般に10〜20b、熟練者最高40b(!?)/滑空性能⇒一般20〜30
    秒、熟練者50秒以上/その他⇒スパイラル防止に主翼下又は機首に十分な側面積が必要、翼
    の前縁及び表面の精粗は性能に重大影響』とある。
 ここまで、我慢して読んで下さった(賢明な)読者は既にお気付きと思うが、実はこの『最新・模型飛行機の事典』なる書物は、巻頭の序文の日付「昭和28年12月19日」時点の、『最新』なのだ(ちなみに、筆者は同年2月生誕。本書の発行は5年後の'58年4月。定価¥480也)。だからFFとCLには詳しいが、RCに関しては全く記述が無い(RC実用化以前、の出版だから当たり前だ)。
 それにしても、ことHLGに関しては四十数年前と現在の違い・落差が呆れるほど少ないことに驚かされる。掲載されている設計図を見れば、ランチャーズの初期に飛んでいた機体とさほど違わない。出版された当時、バルサが貴重品だった事は容易に想像されるが、『桐は丈夫だが、競技では重量の点で難あり』などと冷静な記述も頼もしい。著者は確かに、模型ヒコーキを実際に手掛けた人だという証拠だろう。
 最初に書いたように、この本は"事典"と銘打っているだけあり、どこを開いても読み始められるし、一寸した調べものにも便利な構成になっている。この本の現代版があれば、便利で楽しいと思うのだが、どなたか書いてみようと言う御仁はいないだろうか。どれ程売れるか?…は保証の限りではないが、喜ぶ人は多い筈だし、将来につながるはずだ。今こそ、ヒコーキ人口増加の為に奮起してほしい!
 もっとも、今これを書こうとすると、膨大な情報を整理するだけでアッという間に10年ぐらいは経ってしまいそうだ。所謂“ローテク”だけで用が足りた、シンプルな時代が羨ましい!…とも言えるのだが。
                                               (StupidCat)