“unitary capacity”
 参照HP⇒
 http://www.ferrari.it/home1.html
 http://www.lemans.org/24h_mans/aco_jp.html
▲1‐2‐3Finish!!('67“Daytona24hour”)
 トヨタがMR2というクルマを発売した時代には,「スポーツカーなどは必要無い!」という論調が一般的だった.メーカーは,「これは,ミッドシップ・ランナバウトです」と苦しい説明をした.ランナバウトは,街乗り,チョイ乗り等を意味する言葉だから,ミッドシップ・レイアウトの目的とは本来相容れない筈なのだが,bPメーカーとしてはそうでも言わないと格好が付かなかった.妙な話だが,運輸省の認可を得るためには他に方法が無かったらしい.ともあれ国産車の歴史上,画期的なクルマだった事は間違い無い.
 Ferrariは,スポーツカーの代表選手だから,公道用のミッドシップ車の開発は早かったと思われるだろうが,意外な事にかなり後発組に属する.左の写真は,'70年代初めまで生産されていた“365GTB4”だが,実物は意外な程小振りなクルマだ.ただし長いノーズの下には,4400ccのV型12気筒エンジンが納まっている.俗にロングノーズ・ショートデッキと呼ばれる理想的なフォルムで,社主のエンツォはこの形態に深い執着を持っていたと言われる.それは,彼の若い時代の記憶に関係があるらしい.
 Ferrariがミッドシップ化を躊躇したもうひとつの理由は,騒音だ.Ferrariは高性能車であると同時に高級車でもあるので,耳のすぐ後方で唸りを上げるエンジンノイズをどう処理するかに,かなり悩んだらしい.
 現にもっと小さなサイズのDinoは,66年に“206GT
”(→)が発売されているが,2000ccで音量も知れているし,DinoはFerrariではない(どこにもFerrariのエンブレムは付いていない!)ので,許されるのだ.もちろんFerrariMusicと称して,エンジンノイズを喜ぶ向きもあるが,(¥で)8桁に達する価格のクルマとしては,やはり喧し過ぎるのは問題だろう.
 更に課題があった.この時期の同社には,V型12気筒エンジンしか無かったのだ.ミッドシップの場合,長いエンジンはレイアウトに苦労する.競技用車ならともかく,ドライバーをあまり前方に押し出すのは,安全面からも苦情が出る.横置きエンジンという手は,ライバルが既に採用していたから,意地でも使いたくなかっただろう.社主は,頑固者で通っていた.
 左は,66年から少数が作られた“250LM
”(LM⇒ル・マン)だが,街中では乗り難そうなレイアウトであることが分る.ドライバーの足は前輪の軸辺りまで届くし,エンジンは背中に接している.勿論,レーシングマシンとしては,歴史のひとコマを刻んだ名車だったが.
 Ferrariが初めて本格的なミッドシップ車を市場に投入したのは,73年の“365GT/4BB”(右写真)だった.末尾のBBはルリネッタ・クサーの意で,後半のボクサーは水平対抗エンジンを指している.
 F−1で成功した水平大綱エンジンを採り入れる事によって,ミッドシップの問題点を解決しようとしたのだ.以後全てのモデルがミッドシップとなり,最近のF40/F50辺りまで続く.
 ところで,ミッドシップ形式のメリットは,「Z軸周りの慣性モーメントが減少し,コーナリングの限界性能が上がる」事なのだが,サスペンションやタイアの性能が飛躍的に高まっている現在,公道を走るクルマにそこまでの能力が必要か?という疑問は残る.限界が高い分だけ,コントロールも難しくなる.
 そんな疑問に対する回答が,自社の本拠地名を冠した最新モデルである“550Maranello”だ.昔日の365GTB4を思わせるフォルムを復活させ,駆動系はトランスアクスル形式で,これも伝統に従っている.やはり高性能と豪華さの両立には,フロントエンジンの方がふさわしいという判断だろう.どうせなら,車名に含まれている数字の意味も昔のセオリーを復活させて欲しかったと思う.
 70年代前半までの資料では,排気量の項目にはUnitary&Total capacityとある.Unitary,つまり気筒当たりの排気量を明示しているのは,Ferrariが原則として12気筒しか造らなかったからだ.車名の数字が,気筒ごとの排気量を指しているという,何ともロマンティックかつ優雅な習慣なのだ.8気筒と12気筒の両方を持つ現のFerrariに,古い慣習の復活を望むのは無理な注文なのかも知れないが,少々残念ではある.なお,この慣習が消えていった時期から,創始者エンツォの支配が行き届かなくなったと言われている.ちなみにMaranelloを昔風に呼ぶとすれば,“456GTB4”になる.                                                        (stupidcat)
【蛇の足…後日談】
 最近,“unitary capacity”が復活している.456Mがそれで,旗艦maranelloのエンジンなど主要コンポーネンツを流用しているが,実用性も兼ね備えた2+2ボディを載せている.排気量は約5500cc,気筒数12,unitary capacityは,456となる.
 別段,極東の貧乏なマニアの声が届いたワケではなく,同社が最近見せている“懐古趣味”によるものだろう.本来のFerrariユーザーが求めているのは,絶対的な性能ではなく,例えばミハエルを想いだしながら快適・安全に速く走るコトなのだから.
←ミッションをデファレンシャrルを一体にした,「トランスアクスル」形式のドライブトレイン.
 これは,550Maranelloのものだが,基本的には456Mも同じ.重量配分の適正化(当然重心位置が通常のFR車より後方になって,重量配分が50:50に近付く)が主目的だが,剛性分布の点でも有利だと思われる.
 この形式は,設計がまずいとシフトレバーの操作感が損なわれる可能性があるが,Ferrariのような高価挌車ではたいした問題にならないだろう.他には,Porscheがフロントエンジンシリーズの924/944/928で採用した.フロントエンジン車では,ノーズへヴィになるほど,操縦性だけでなくブレーキ性能も悪化してしまうから,当然の選択だった.



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