バードウォッチングなどという洒落たことではないのだけれど,公園のベンチで野鳥を観察するのが日課だった時期がある.野鳥は,RC(ラジコン)よりも,CL(Uコン)よりも,FF(フリーフライト)を連想させる(注@). 「“飛ぶ”モノは何でも好きですか?」と訊ねられたら,あなたはどう答えるだろうか.多分,少しの間考えた後,こんなふうに答えるのがいっとうFF屋らしいのではないか,と思う. 「“飛ぶ”という言葉を,もう少しだけ正確に定義してくれませんか?」 |
ワープロに『とぶ』と入力し,変換ボタンを押すと,「飛ぶ」「跳ぶ」「とぶ」「トブ」の4種類が選択できる(ワープロソフト“Word”の場合).また,古い辞書で『とぶ』を引くと,「【飛ぶ】@空をかけるAはねる,おどるB吹きあげられて,ひるがえるCはしるD間をこえて先へうつるEへだたる」とある(新解・国語辞典,金田一京助他編,’60頃). |
もちろん,ピョンピョン跳ねるバッタよりは,スイスイと宙を滑るトンボの方に気持ちが惹きつけられるFF屋(注A)としては,「跳ぶ」ではなく「飛ぶ」だろう.そして辞書からの選択肢としては,当然「@空をかける」が最有力候補な筈だ. でも,もっと正確に言うと,「F宙に浮き,滑る」を追加してもらいたい気持ちになるのではないか?また,「B吹きあげられて,ひるがえる」はサーマル(注B)に乗った状態と受取れる一方,下降気流に叩き落とされるという不吉な解釈もできる. |
ところで,FFの飛行を単純に分解すると… a,)上昇(F1Aなら,バントの上昇過程まで/注C) b,)転換(姿勢変換の意,所謂トランジション/注D) c,)滑空(バント過程終了から,DT作動まで/注E) d,)降下(DT動作後の,制御された落下) …の4段階となる. |
ただしこれは,HLG(注F)を含む一般的なアウトドア競技機の場合だ.中には,インドア・ラバー機(注G)のように終始動力飛行を続けるものもあるし,紙飛行機やスケール機(注H)の多くはDTを持たないから,d,)は無い. いずれにせよ,a,) b,)には前出の@が当てはまるが,c,)には(勝手に追加した)Fがふさわしいと思う.CLやRC(グライダーを含めて)では,@やAがピッタリだが,機種によっては,「G宙に浮き,留まる」を(またしても勝手に)追加したくなる.ホバリング中のヘリコプター(注I)も,「飛んでいる」事に違いはない. |
FFの場合,「@空をかける」「F宙に浮き,滑る」のだが,風向きやその強さによっては「G宙に浮き,留まる」こともあるし,運が悪いと「B吹きあげられて,ひるがえる」こともある.ただし,@とFの間に,b,)の過程があり,実はこれが一番の難関であることは,同業者(?)なら同意していただけると思う.ある程度セッティングの進んだ機体なら,この過程をのりきれば飛行はほぼ成功したと言える. 機体が,無事に滑空状態に移ったこの瞬間こそ“FFの醍醐味”ではないか…,と思うのだが,いかがなものだろう? |
話は飛ぶが,先年起きた全日空機ハイジャック事件を覚えているだろうか?電脳遊戯ヲタクと思われる青年が,「実機でレインボーブリッジをくぐり抜けてみたい…」と考え,起こしたらしい事件だ.どうにも理解に苦しむ事件だった.報道された断片的な情報から想像されることは,彼が(電脳相手に)操縦していた(らしい,架空の)ジャンボ機は,どうやら真空中を飛んでいたようなのだ. |
…?と言うのは,例えば,FF屋なら誰でも知っている「地面効果」(注J).コレのおかげで,辛うじてMAX(注K)なんて経験を持つFFフライアーも多い筈だが,実機では厄介な現象で,着陸時にはスポイラーが必要だったりする.他方,琵琶湖でおなじみの人力機・滑空機では,コレを最大限に利用できるかどうかが勝敗を決める,とさえ言える.おそらく犯人の青年は,「地面効果」等の空力的な知識は乏しかったのではないか?(勿論,電脳遊戯の作者も御同様?).正確には分からないが,747クラスなら地(水)上50m程度でも「地面効果」の影響が出るのでは?…残念ながら電脳遊戯では,地面効果のフィードバックまでは再現してくれない(最近の実機も,同様かもしれないが…). |
小さな紙飛行機でも,巨大な実機でも,まわりの空気を押しのけながら(その流れを利用し揚力を発生させながら)「宙に浮いて」いる.ましてや500人もが乗るジャンボでは,押しのけなければならない空気の量は膨大で,その後流にうっかり近寄った小型機がひどい目にあったりする事も,ヒコーキ好きには常識だ(ページ末↓の写真参照). 一方,TVか映画の,軽飛行機が大きな橋をくぐり抜けるシーン…辺りから,気軽な連想で作ったのであろう電脳遊戯.製作者も,まさか実機で真似をする馬鹿な奴が現れるとは,夢にも思わなかっただろう(別段,同情してやる必要は無い.無知のツケ,が廻ってきただけの話だ!). |
いささか身贔屓な言い方を許していただけるなら,模型ヒコーキ屋という人種(特にFF屋)は,翼表面に張った細い糸が機体の性能をガラッと変えてしまう可能性がある事を知っていたりする(注L).また,実機の747を見上げて,その機体廻りの空気の流れを想像することも出来たりする.だから,間違っても“レインボーブリッジを潜ってみたい”なんて考えない(でしょう?たぶん…). |
ところで,前に書いた“醍醐味”は,ヒコーキ屋の中でもFFだけに許された素晴らしい特権だと思う.その時あなたは,『上手く飛べ〜!』と祈る以外,何もしなくて良い.何しろ手もとには,(電波を発信する)送信機も,(ワイアが繋がった)コントロール・ハンドルも無いのだから. 次の瞬間,待っているのは“安堵”か“絶望”か?…FFは,もしかしたら博打に(ほんの少し)似ているかも知れない. (stupidcat) |
【蛇の手】 |
言うまでもないが,米国のテロ事件が起きる前に書いたので,アノ件には触れていない. テロ事件の犯人は,いちおう飛行学校などで訓練を受けた上での“犯行”だった(らしい).離着陸をのぞけば,航空機の操縦は神業を要求しない(そうだ).ただし目標への突入経路の正確さを考えると,彼等に“神様が憑いていた”のは間違いないと思われる.もっとも昔の特攻と違って,対空砲火もNT信管もなかったワケだから,訓練時とそれほどの違いはなかったのかもしれない. 一方わが乗っ取り殺人犯は,TVゲームの経験だけで「橋くぐり」を敢行しようとしたのだから恐ろしい.PCのシミュレーション・ゲームと,操縦訓練の為のそれとは全然別物だというぐらいのことも理解出来なかったのか.湾岸戦争で米軍が公表したTV映像を指して,TVゲームの好きな日本の若者向きですネ,などとのたもうた自称軍事評論家がいた.冗談にせよ,公器を使ってそういう馬鹿な言動が流されるから,更に馬鹿なヤツが出現してしまうのだ.Internetも公器だから…お互い,馬鹿なマネはやめましょうね!? |
▼B747の低空飛行(多分着陸時)に巻き起こった横転竜巻の図.たまたま工場の煙がたなびいていたので目で見えるカタチになった. |
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このウィンドゥを閉じま〜す! |
【蛇の足…本文注】 |
@模型飛行機は,電波やワイアによって操縦するものと,手を離した後は自働的に飛ぶものに大別でき,FreeFlightは後者.サイズや動力の有無・種類によって様々なジャンルがある(本文にもどる) AFreeFlight模型を嗜む人種をFF屋(えふえふや)と呼ぶ(本文にもどる) Bサーマルは熱上昇気流.滞空時間を競うFF模型は,コレを利用して時間を稼ぐ(本文にもどる) CF1Aは国際規格の索で上昇させるグライダー.索から離脱した後,急激に垂直上昇させて高度を稼ぐ手法がバント(本文にもどる) D上昇姿勢から滑空への移行をトランジションと言う(本文にもどる) EDTはデ・サーマルの略.FF機は,機械/電子タイマーや火縄によって一定の時間が経つと強制的に降下させ回収する(本文にもどる) FHLGはハンド・ランチ・グライダーの略で,翼長4〜60cmの機体を手で投げて滞空時間を競う(本文にもどる) G室内で飛ばす超軽量のゴム動力模型ヒコーキ(本文にもどる) H紙ヒコーキは原則として紙だけで機体を作る.スケール機は実機に似せて作られる(本文にもどる) Iホバリングは空中に静止する状態(本文にもどる) J地表(水面)すれすれを飛ぶと,ヒコーキは一種の反射効果で滑空が伸びる(本文にもどる) KFFの滞空競技では,それ以上飛んでも成績に加算されない時間を設定し,MAXと呼ぶ(本文にもどる) L乱流効果といって,翼表面の気流をわざと乱して性能を向上させる手法がある.実機のボルテックス・ジェネレーターなどと同じで,乱れた気流が翼面から剥がれにくい性質を利用する(本文にもどる) |