一方,非日常はというと… ある午後,まだ子供たちが現れるには少々早い時刻,若い男女が片隅のベンチで言い争っている場面に遭遇した.見える範囲にいたのは,彼らと,少し離れたベンチに座っていた老婦人だけだった.最初は,よくある種類の痴話喧嘩だと思っていたのだが,聞いているともう少し込み入った話のようだった.別に聞き耳を立てていたわけではない.青年の声は,離れたベンチにいてもハッキリ分るぐらい大きかったのだ. どうやら彼は,ムショ帰りらしかった.本人が言っていたのだから,多分間違いない.ヒョロッとした身体にあまり上等ではないジャケット姿の彼には,それほどワルのイメージはなかった.女性の方も,あまり上品ではないものの身奇麗な印象だった.ずっとうつむいていたから,長い髪に隠された顔は見なかった.彼女がうつむきっぱなしだったのは,青年がものすごい剣幕で怒っていたからだ. |
聞こえてしまった話を要約すると,こういうことらしい.彼は,彼女かあるいは彼女のごく近しい誰かをかばうために裁判を受け,短い期間ムショ暮らしをしていたようだ.ところが,入獄中に彼女が,あろうことかコトの発端に関わっていた(らしい)オトコと関係を結んでしまった,というのが大体の筋書きで,彼の怒りの原因らしかった.らしい,を連発するのは,彼の怒りがあまりに激しく,話の脈絡が十分とれていなかったためだ(こんな場面で,確認をとるわけにもいかないではないか!). |
そう,その日の出来事は(当事者には悪いが)文字通りのドラマだった.穏やかな公園では,およそ滅多に見られない種類のドラマだったから,非日常の極致だったと言える.幸い彼らには,自分たち以外の存在はまったく意識に上らないようだったから,コチラも公園の点景でいられたのだ. 困るのは,この逆の例だ.つまり人目をはばからない点は同じでも,むやみに仲が良いカップルが偶に公園に入り込んでくることがあるのだ.もちろん,そのこと自体をとやかく言うのが野暮だというのは分っている.しかし,植え込みの陰にもベンチはあるのに,なぜ近頃のカップルは四方八方から丸見えの場所を選んでイチャつくのだろうか?それも,小さな子供たちが遊んでいても平気,犬が飼い主を連れて散歩していても平気,小汚い中年男が隣のベンチで模型ヨットをいじっていても平気,なのはなぜだろう?もう少し目立たぬ場所を選んでもらいたいと思うのだが…. |
唇を重ねたり,互いの身体をまさぐったりするのは,たいへんに気持ちが良い.ただし本人たちにとってはという条件つきで,これを性行為と呼ぶ.性行為は,ある意味で排泄行為に似ているから,第三者にとっては生理的な嫌悪感を抱かせる場合が多い.しかも,性行為や排泄行為の最中は完全に無防備だから,たいていの動物はさっさとすませるか隠れて行なうのが普通だ.更に言えば,性行為そのものが目的化してしまったのは人類とわずかな霊長類だけで,ほとんどの動物は子孫の繁栄の為に用が足りれば,なるべく早く切り上げる.特に弱い立場の鳥類などは,瞬間的にすませる例がほとんどだ. |
ところで,今でも気になっているのが先に紹介したカップルのその後だ.上手く折り合いをつけて,その後は幸福になれたのだろうか?それとも?…オセッカイなのは承知しているが,何かの縁で行き会ってしまったのだから,ミーハーで野次馬としては気にするな!という方が無理だ.願わくば… (stupidcat) |
【蛇の足】 | |||
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