根っからのヒコーキ好きだから,TVニュースなどで航空機が映し出されるとつい注目してしまう.もちろん,事故や国際紛争にからむ映像まで喜んで見ているわけではないが,興味が純粋にヒコーキに向かってしまうのはマニアの業というべきだろうか.
 例えばイラクがクェートに侵攻(侵略)した戦争では,TVを見るたびに米軍やNATO軍の機体が登場したから,不謹慎な話だが嬉しかった.マニアといってもそんなに研究していないので,目新しい映像も多かった.例の"見えない戦闘機F-117ステルス"が,初めて実戦に投入されたのもあの戦争だった.見えない,といっても肉眼ではよく見える…否,目立ちすぎるほど異様な姿だが,レーダーの電波では非常に捕らえにくいらしい.
 真偽の程は不明だが,英国の作家が書いたものに,「イラクのミサイル基地の兵士たちは,何もない所から爆弾が降ってくる!と恐れおののいた」とあった.ステルス性能が宣伝通りだったとすれば,あり得る話だ.対空ミサイルは,敵地に侵攻する航空機にとって最大の天敵だ.現代の防空システムは,レーダーとミサイルの組み合わせが基本だから,最初にこれを叩いてしまえば後の作戦は桁外れに楽になる.F-117はそのために開発された機体で,その他の性能はあまり重要視されなかったことは開発ティームを率いた人の回想録にも書かれている.

 ▲“F”‐117ステルス戦闘機.このカタチで飛んでる!
 この"見えない戦闘機"について,ひとつの疑問が残った.ヒコーキ好きなら当然知っているように,米軍の場合は戦闘機には"F"で始まるナンバーが与えられる.WWU直後までは"P"だったことも,マニアならご存知だろう.ところでこのステルス機には,一般的な戦闘機に備わっているはずの機銃や対空ミサイルの類は一切備わっていない.試作中,胴体下部の爆弾倉カヴァがわずかに開いていただけで,レーダーにハッキリ映ってしまうことが判明した.よけいな突起物はご法度なのだ.搭載兵器は,胴体内部に積んだ“賢い爆弾”だけで,速度も音速以下だ.敵機に遭遇したら,神様に祈る以外できることはなにもない.
 疑問というのは,なぜそんな機体が「戦闘機」なのか?ということだ.厳密な定義は知らないが,戦闘機は制空権を確保して攻撃機や爆撃機の安全な行動を確保するための機種だったはずだ.自己防衛の装備をまったく持たず,地上の目標に爆弾を落とすだけの機体がなぜ戦闘機なのだろうか?米軍が"F"のナンバーを与えているのだから,戦闘機に分類されているのは間違いないのだが.
 もっとも最近は,戦闘機と攻撃・爆撃機の区別があいまいになっている.半世紀前,朝鮮戦争の初期に米軍は軽量なミグに苦戦した後,F-86で挽回した.その後,戦闘機は徐々に肥大化していったのだが,再びベトナムで苦戦を強いられた.再び空戦性能の重視が叫ばれて登場したのが,現在も使われているF-14/15/16等だ.それが再・再度,肥大化路線を進みつつあるようで,考えてみれば現代のジェット戦闘機はWWUの小型爆撃機以上の搭載能力を持っている.少ない機種で多様な作戦を展開したい軍と,少しでも仕事を増やしたい軍需産業の思惑が一致した,と見ればつじつまが合う.
 軍用機の価格が高騰しているのも,そんな傾向に拍車をかけている.また,湾岸戦争でみられたように戦争のあり方が変わってきており,大国同士が巨大な軍を総動員する形態は考えにくくなっている
(米軍は,世界の警察官などと舞い上がっているから,害虫を駆除するための道具が欲しいのだろう).だからといって,F-117が戦闘機とされている理由はいまひとつ分らない.むしろ,“A”のナンバーを付けた攻撃機とした方が納得できそうな気がするのだが,素人考えだろうか?
 軍事用語として最近多用されている言葉に,「空爆(くうばく)」がある.これもよく分らない言葉で,空襲と爆撃を一緒にしたのかもしれないが,筆者が若い頃には使われなかった.WWUでは「空襲」と言っていたし,ベトナムでは「爆撃」だった(北爆,つまり北ベトナム爆撃).この二つは,やる側とやられる側で使い分けているだけで,行為としては同じものだ.
 それが,どういうワケで空爆になったのかは,分らない.強いて言えばやる側が使う場合が多いようで,やられる側にしてみればやはり空襲だろう.もうひとつ変わった事は,単純に爆弾を落とすだけの爆撃が少なくなり,ピンポイントを狙う攻撃が主流になったことだ.ミサイルの類はもちろん,先進諸国では前述の“賢い爆弾”が主流になりつつあるようだ.だから空爆なのか?というと,そうでもなさそうだが.
 ところで,最近自宅に配られた広告新聞の記事に奇妙な表現を発見した.たしか三月頃だったと思うが東京大空襲についての話で,内容についてはもう忘れてしまったのだが,文中に『B-29戦闘機』とあったので少々驚いた.世の中にはヒコーキに興味のない人の方が多いから,“B”が爆撃機を表しているのを知らない点を責めるつもりはないが,それにしても日本人にとって忘れることのできない,原爆を投下したにっくき“敵”だった筈のB-29だ.これを戦闘機と書くのは,いくら何でも無知が過ぎるのではないだろうか.
                             ⇒雨あられと爆弾を降らせるB‐29“爆撃機”.
                               広島・長崎に核爆弾を落としたのも同型機.

 ▲B‐29に描かれた“TOKYO-KO”
 …とは思ったが,ふと考えなおした.この記事を書いたのは,おそらく筆者の息子や娘(がいれば)よりも少し年長程度だとしても不思議ではない.当然親たちに戦争体験はないし,ヒコーキや軍事に関心が無ければ「戦闘する飛行機は,みんな戦闘機」と思い込んでも無理はない.
 “クーバク”が使われるようになったのも,案外こんなところに秘密があるのかもしれない…と,最近は考えている.物好きでない人たちにとって,空襲も爆撃も空爆も,ヒコーキが爆弾を撒き散らすことなのだ.
 またひとつ,日本人は言葉の使い分けを捨てたのだろうか.こんなとき,一見単簡なアルファベットを使う人々を羨ましく思う.文字が単純なだけに,組み合わせで多様性を確保してきた彼らの言語は明快だ.知っている言葉の数が知性を裏付けるとしたら,我々はそれからどんどん遠ざかっている…のかもしれない.               (stupidcat)
【蛇の足】
 この原稿を書いた直後,米国でビルや国家機関を狙った「旅客機乗っ取り特攻」事件が起きた.様々な報道のなかで,アナウンサーや解説者の用いる言葉があまりにもメチャクチャなのに呆れてしまった.衝突,激突はいいのだが,追突などという表現が飛び出したのにはあっけにとられた.知性は,どんどん希薄になりつつあるのだろうか?よけいなお世話だろうが.
(タイトル写真は長崎に核爆弾を投下した,B‐29の機首.“BOCKSCAR”と書かれた丸い絵の左側には“NAGASAKI”,右側には“SOLTLAKECITY”とある.長崎は未開の蛮地?ふうに描かれ,未来都市風に描かれたソルトレイクシティとは対照的だ.)



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