“display”
 バードウォッチングなどという酒落たことではないのだけれど,公園のベンチで野鳥を観察するのが日課だった時期がある.探鳥と同時に,そこに居着いた猫と遊ぶのも楽しみだった.訪れるのが穏やかな人ばかりだから,猫の方も呑気な奴が多かった.
 雰囲気は呑気でも,交わされる会話は殺伐とした内容の事も多い.何しろ,集まるのは暇を持て余したリタイア老人が主だ.それもインテリ揃いだから,話はどうしても小難しい方向に流れがちになる.とはいえ,現役ではないから利害関係とは縁が薄い.年金とか高齢者医療といった問題を除けば,大抵の場合為政者の悪口大会で終わるのが常だった.そこで毎回話題に上るのが彼我の為政者の比較で,我々が選んだ連中の嘘つきぶりが非難の対象になる.悟ったような老人…等と言うがとんでもない話で,毎日ちゃんとニュースを見ているのは主に暇な老人達だ.最近の年寄り達は,皆怒っている.為政者達は,何か重大な勘違いをしているのだ.
 嘘と言えば,長い間信じこんでいた事柄が,ある日180度ひっくり返ってしまった経験は無いだろうか?例えば,クレー射撃だ.子供の頃TVで見て,何という天才的な射撃の名手たちだろう!と感激したものだ.戦後ヒト桁生まれだから,子供の頃は所謂西部劇の絶盛期だった.しかし,実弾なんて滅多に当たるものではないという事を戦争体験者に聞いていたから,あれはお芝居だと納得していた.だからこそ,クレー選手の腕前が神業に感じられたのだ.
 散弾という物がある事は早くから知っていたが,クレーと結びつけて考えなかったのは我ながら迂闊だった.ましてや,弾の広がり具合が調節できるなどという事は知る由も無く,長い間一発必中の名手達と信じていた.つくづくマヌケだった,と後になって思った.
▲散弾銃の薬包.赤い筒の中に見える赤
い粒が実際に飛び出す散弾(鉛)で,サイズ
は様々.筒の左の黒い部分が炸薬(火薬)
で,これも種類はさまざま.
 
▲ディスプレィの一例.銃弾,ミサイル,ロケッ
ト弾等々…これを全部搭載したら,この戦闘
ヘリが離陸出来ないのは素人目にもわかる.
 これと似たような例として,航空ショウなどで軍用機の展示が上げられる.ヒコーキ好きならご存知だろう,機体の前に爆弾,ミサイル,バルカン砲(外付け型),増槽(同・予備タンク)などをズラリと並べて見せる,アレだ.子供の頃は,このヒコーキは何とスゴイ搭載力なのだろう!と感心したものだ.勿論これも一種の嘘で,搭載可能な装備を残らず並べているだけの話だ.しかも'60〜'70年代の米軍のそれは,ありったけ並べてみました的な例が多く,ある戦闘機の写真では合計100発程も写っていた.実際に搭載できるのはせいぜい6〜8点程度で,しかも場合によってはフルタンクでは離陸できず,僅かな燃料で何とか飛び上がった後で空中給油を受けなくてはならない.
 これを知った時も,騙されていた!という気がしたものだ.ちなみに,こういう展示をディスプレイと呼ぶ.ショウウィンドゥに商品を展示するのと同じ呼び方だから当たり前なのだが,同じ言葉は違った使われ方もする.
 例えば,鳥類では雄が雌に求愛する時に,自分の美しさやたくましさを強調する為の動作をするが,これもディスプレイだ.暑い地方には,孔雀のような派手の極地みたいなヤツが多い.
 身近な例では,公園の土鳩が首の周りの羽毛を逆立ててこもった泣き声を立てるのは,雌に言い寄っているのだが,これも立派なディスプレイ.金髪に染めて耳に孔を穿った若者達も,ディスプレイの真っ最中なのだろう.鳥の中には,採ってきた餌を雌にプレゼントして関心を惹くという,地味で実質的な求愛をするヤツも居る.一頃話題になった「ミツグ君」みたいで,今も昔も男(♂)が阿呆である証明みたいなものだ.もっとも,ミツグ君の健気さは同情できなくもないが,孔雀や土鳩は見せかけだけで,航空ショウの展示と同類ではなかろうか?とも思う.
▲ディスプレィの例.土鳩の求愛は,♂が♀の周りで首周りの羽毛を逆立てて鳴く.成功して性交にいたる確立はかなり低いようだ.
 「嘘つき!!」と非難されて,本気で反論できる程真っ当な人生を送ってこなかった身としては,他人様のことをとやかく言えた立場ではない.が,最近の新聞・ニュース等を見ていると,自分なんぞカワイイものだナァ,という気になってしまう.為政者の勘違いは,ここにも現れている.嘘をついて構わないのは自分達だけだ,と信じ込んでいるかのようだ.為政者が嘘つきだと,庶民はもっと嘘つきになる.上に立つ(大嫌いな表現だが)者は,その他大勢にとっての鏡だ.歪んだ鏡に,マトモな像は写らない.為政者のウソが許されるのは,世の中がまっとうに動いている間だけだ.
 ところで大抵の人はご存知と思うが,某大国の大統領夫人は亭主が立候補するに当たって,髪色をブロンドに変えた.国を代表するファーストレディは金髪でなくては…という馬鹿な思い込みが,国民の間に定着しているのが理由なのだそうだ.しかし個人的には,いかに女性とは言えファーストレディが「チャパツ」というのはどうか?と思う.オシャレと言ってしまえばそれまでだが,所詮インチキではないか.
 亭主の尻が軽くなるのは当たり前だ…などと言ったら,世の女性たちから滅茶苦茶に怒られるだろうナァ〜.Sigh.
                                                          (stupidcat)
【蛇の足】
 マリリン・モンローの金髪が染めたものだったのは有名な話だが,彼女はいかに見せるか?が職業の女優だから別段インチキとは言えない.某大国の大統領夫人は栗色の髪で,たいそう魅力的だ.思い込み云々,の話もどうやらインチキだったらしい.ディスプレーとは,所詮そういうことだろう.
 本文に書いた他にも,インチキに騙された例としては「城」がある.西洋の城はあらゆる機能を内包しているらしいが,日本のそれで一番目立つ天守閣は単なる物見櫓(やぐら)に過ぎない.そのことを知ったときも,やはり相当ガッカリしてしまった.正直に白状すると,あの中にお殿様やお姫様が住んでいる…とばかり思っていたのだ.嗚呼!



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