“英国の犬は緑色の卵を産む?”
 バードウォッチングなどという酒落たことではないのだけれど,公園のベンチで野鳥を観察するのが日課だった時期がある.古川柳に,「蟻の列,金の無い日におもしろい」とあるのだが,まあそんなような気分でいたワケだ.ちょっとした池のある,なんてことはない住宅街の公園なのだが,そのつもりで観察していると十数種類の野鳥がやってくる.別段,彼らの姿や声に心慰められていた…なんてコトでは勿論なくて(柄でもない!),彼らの飛翔風景に一応興味がある振りをしていただけだ.
 例えば,これは飛ぶ事とは直接関係のない話なのだけれど,30年来の疑問が氷解したというお話.読者諸兄は「ドッグ・エッグ・グリーン」という色をご存知だろうか?『犬卵緑(けんらんりょく)』とは,ナンのこっちゃ?…と誰だって首をかしげると思うが,実はこれ先の大戦中の英空軍機の下面制式色なのだ.具体的に言うと,ちょっとくすんだ感じの明るいベージュで,ハリケーンとか,スピットファイアの下面はこの色が多かった(例外も多々ある).たいていの国では,空色とか白とかいった常識的な色を採用していた.しかし英空軍では,あの謹厳実直(?)なランカスターのお腹も『犬卵緑』なのだ.英国では,犬が緑色の卵を産むのだろうか?
 冗談はともかく,「何故そんな色なのか?」は,3年程前から公園の池にやってくるようになったカルガモが教えてくれた.ある午後,一羽がパタパタと羽ばたいたその瞬間…
 「ナールホド!」
 …カルガモというのは随分と地味な鳥なのだが,その翼の裏側は見事なまでに美しいクリーム色だったのだ
(ただし全体ではない).晴天は別として,曇天や朝夕のまずめ時にはいかにも空に溶け込んでしまいそうな,見事な「保護色」でありました.
 果たしてこれが正解かどうかはおおいに疑問だし,ネーミングの由来もまた不明のままだが(どうせ英国流諧謔というやつだろうと思う.ご存知の方,ご教示下さい),十代の頃からの疑問にとりあえず答えらしきモノが見つかると言うのは嬉しいものだ.
 まわりを林に囲まれている池なので,カルガモ君たちはまるで厚木基地で離発着訓練を繰り返すFA ‐18並みの角度で降下してくる.着水音もけっこう派手で,しかもたいていはいきなり降りて来るから,ちょっと驚かされる.離水は水面を足でかいて速度をつける水鳥独特な方法だが,危険を感じるとほぼ垂直に飛び上がることもあって,これにも驚かされる.
 いずれにしても,この鳥がどんなふうに飛行しているのか,公園のベンチからではほとんど観察できない.数少ないチャンスで見た限りでは,地上でのドン臭い動きとは裏腹に,かなりの高性能機
(?)のようだ.例えば,離水後の加速・上昇の鋭さは,とてもパークプレーン(公園など狭い場所で楽しむ小型の模型ヒコーキ)的ではない.巡航速度もかなり速いのではと想像できる.
 元来は渡りを行う鳥なのだから,飛びっぷりがたくましいのも当然か.もっとも最近では,しっかり居着いて留鳥化してしまっている固体もけっこう居るらしい.公園で見ている限りでは,2〜5羽ぐらいの群れでやってくることが多い.先に着いた奴と上空を飛んでいる連中とが泣き声で連絡することもあって,そういう時はかなりにぎやかだ.ただし,泣き声自体はあまりエレガントではない.
 毎年ニュースになる皇居近くで子育てするカルガモだが,あの光景はちょっと野外生活に親しんだ人なら見慣れている筈だ.場所が場所だから,交通規制までしてしまうのも分らないではない.が,あの親子に注ぐエネルギーの幾分かを,他の場所の「普通のカルガモ君たち」に分けてもらえたらイイのに…と,毎年TVを見るたびに思う.                             (stupidcat)



【蛇の足】
 クチバシの形から,草食だろうと想像できたので,試しに公園のそこいらじゅうに落ちているドングリを池に放り込んでおいたら,案の定首を水中に突っ込んで食べていた.あんな堅いものをそのまま呑み込んで平気なのだろうか?と心配になったが,鳥類の胃袋というのは我々のそれとは違っているらしい.骨だらけの小魚を丸呑みにしてしまうヤツだっているのだから,ドングリぐらいは屁でもないのだろう.あんまり栄養価が高いとも思えないが,無いよりはマシといったところか.



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