本資料(石井式『ス−パ−PLG』の研究)は、1991年6月に石井英夫さんからランチャーズ会報(ペーパ会報)へ寄稿していただいたものをHTML化したものです。

PLGとはパチンコ・ランチ・グライダーのことです。
カタパルト・ランチ・グライダー(CLG)が世界共通の表現と思われますが、ランチャーズでは日本人に馴染み深く、長年使っていて愛着がある「パチンコ」を使っています。

※充分注意いたしましたが、HTML化時に誤記があるかも知れません。ご了承ください。


石井式『ス−パ−PLG』の研究・・・・・・・・・・・・・P.1


まちだ−あほうどり 石井英夫


はじめに


「ランチャ−ズ」への投稿はこれがはじめてです。


小生が多年手がけてきたPLG(パチンコ・グライダ−)が、一応の発展段階にたっした(と思われる)ので、まとめて発表したいと思います。


HLG(ハンドランチ・グライダ−)とPLGは、バルサ製の小型グライダ−という点では共通で、兄弟分のようにみえますが、実態はあきらかに別のカテゴリ−で、PLGは発航方式の点でむしろ紙ヒコ−キの兄弟分です。


それでも何となくHLGの競技グル−プの端っこに加えてもらっているのは、ランチャ−ズ当局の”老人福祉政策”のおかげというほかなく、特例に甘えている身としてはこれでなかなか気を使っています。

負けないように、さりとてHLG組に過度の刺激を与えないように。というのも、初期のころはともかく現在の発展段階では、HLGとPLGの性能差は誰の眼にも明らかだからです。


ただ、PLGの弱点はピンポイントの精度に支えられているために極端なほどのお調子もので、パタ−ンをくずしたとなったら見るもムザンな結果になりやすく、もうひとつの持病は悪気流にヨワいことです。

ですからパタ−ンが完調で静気流に近い競技となったら、まず負ける気がしません。

サ−マルハンティングなしで飛ばしているのはそのためです。


いまのところ、PLGでの常連参加は小生くらいですが、今後強力なPLG勢が増えるようだと、PLG側に何らかの性能規制もやむをえないとみています。


小生がPLGを手がけるようになって、ほぼ20年になります。


当初はHLGやF1Bの息ヌキに過ぎなかったものが、1980年代のなかば、武蔵野市の通称グリ−ンパ−クに通うようになって、ガゼン気合いが入るようになりました。

ひところこればかりやっていた時期があります。

通算でまだ100機には達してないと思いますが、それに近い機数は作っているはずです。


PLGは公園向きの種目のようで、そういえばグリーンパークは紙ヒコ−キのメッカとしても有名です。


1986年ごろと思いますが、それまで模索中だったF1Cに似た直線垂直上昇パタ−ンをほゞ完成したので、第一回の訪中団のときに持参して濃霧による競技中断時に飛ばしたところ、先方のエライさんにぜひ教育用にと乞われ、進呈して大変喜ばれた思い出があります。


PLGの高速垂直上昇パタ−ンは、始めて見る人は誰でも驚きますが、石井式PLGでは、このパタ−ンの成否こそすべてです。

1977年、デンマ−クのFF世界大会でみたF1Cパタ−ンの革命コスタ−・パタ−ンにあやかる石井式パタ−ンと呼び、今回発表にあたり”ス−パ−PLG”として他と区分してみました。


さて、模索時代にはエラくむずかしいように思われた垂直上昇パタ−ンですが、このごろではだいたいセオリ−も解ってきて、バカチョン・システムにより、手順をふめば誰でも調整を完了するようになっています。

バカチョン・システムといえば小生はむかし、F1Bのバカチョン調整システム”F1Bの4ステ−ジ調整法”なるものを発表したことがありますが、総じてこの種のものはバカチョンが良く、秘密めかした”秘伝・秘儀”のたぐいであってはならないというのが小生の考え方です。


PLGがわかるためには、まずPLGの特異性がわからないといけません。

特異性とはなにか? 男性的な競技であるHLGやPLGは、実技をこそ重んじ女々しく空力理論などをウンヌンする種目ではないのですが、やはり少しは空力的考察も必要です。


PLGの特異性の第1は、カバ−しなければならないその速度領域のとてつもないひろさです。

超高速のカタパルト発射からヒラヒラ滑空へ、その速度差は10数倍に達するでしょう。

この一事だけでもPLGは相当な空力的異端児で、こんなモケイ・ヒコ−キは他にありません。


特異性の第2は、超高速の垂直上昇とヒラヒラ滑空を両立させる自律安定機構ですが、これについてはあとで述べます。

パタ−ンのためには、”新手”が必要で、PLGの速度変化を有効利用することから石井式パタ−ンは生まれました。


PLGと小生のかかわりは以上のような次第ですが、以下PLGの問題点を整理しながら記したいと思います。



1.大きさで決まる滞空性能


PLGの滞空性能から話をはじめたいと思います。ところがPLGの場合、コトは甚だ簡単で、単に機体の大きさだけで滞空性能が決ってしまいます。

意外に思われるかも知れませんが事実です。デザインその他の細かい技術はほとんど関係ありません。

もちろんパタ−ンは完調としての話ですが、ウカツなことに、このことがわかるためにほとんど20年を要しました。


機体の大きさ(サイズ)と言うより目方(ウエイト)と言った方がより正確なのですが、小生のPLG経験では、サイズ・イコ−ル・ウエイトなので、ここではそのように理解してください。


それでは大きさ、すなわち目方別にPLGの滞空性能のめやすを示します。

クラス 高度(m) 滞空(秒)
15グラム級 35 50
12グラム級 40 55
10グラム級 45 60
8グラム級 50 65
6グラム級 60 70
4グラム級 70 75
3グラム級 75 80

これが、6ミリ巾ゴム,20センチル−プカタパルト一律使用時の性能です。


パチンコ・ゴムは、このあたりが小生の体力からは手頃というか上限で、ヘラクルスのような巨人ですと、また別の話になります。

なお念のためにいいますと、滞空のほうはある程度実測ですが、高度は目視による推定です。

高度については寸法差による錯覚が心配ですが、見当にそれほどの狂いはない筈です。


さて表で見られる通り、PLGの滞空性能については小型機の優位は絶対で、すなわち”小さいことが良いこと”なのです。

小生の経験では、どんなにテクニックを弄しても、この原則を打破ることができませんでした。


では、性能に惚れて小生が小型機・超小型機の愛用者かというと、現実はそうではないのです。

5グラム以下の機体も、たまには作って手持ちにはしていますが、めったには飛ばしません。

敬遠したい理由はいろいろですが、ひとつはあまりに速すぎ、あまりに高すぎるためにしばしば眼のほうが追跡できず、楽しめないということがあります。

 さらに、わずか数グラムの機体にいちいちデサマ落下装置を付けるのがおっくうで、小型機・超小型機のたぐいが甚だ短命だと言うこともあります。

 

小生が好んで愛用するのは、8〜12グラム級の機体です。


このクラスの機体で完全調整により60秒あたりの滞空を狙い、かつ飛行姿勢を楽しむのがPLGのダイゴ味かと考えています。


技術面からみたPLGのもうひとつの楽しみは、12グラム以上の大型機による比較的低高度からの60秒突破の試みですが、これまでのところ成功していません。

まだあきらめていませんが、PLGサイズの機体の滑空性能改善策は、ほとんど絶望的のように感じています。



2.テクニックその1・・・・・高度


カタパルト・ゴムが一律の場合は、一義的にサイズすなわち機体の重量で獲得高度が決まることは前節で延べました。ですから高度を稼ぐためには、小さく軽く作ればいい、まさにその通りですが、ただ軽ければ良いかというと、そうはいきません。

軽く、抵抗の小さい機体が高く上るのです。

軽量であることは、パチンコ・ゴムによる加速度が大で、高度をかせぐための第1の条件ですが、ムダな抵抗で貴重なポテンシャル・エネルギ−を損じないことが、第2の条件なのです。

中学校の教科書にも載っている運動方程式によると、ある初速で真上に打ち上げられた物体の到達高度は空気抵抗を考えない場合、次式で与えられます。


S=Vo t−1/2gt**2  ・・・・・・ (1)


ここでSは到達高度、Vo は与えられた初速、tは経過時間、gは地上での重力の加速度で9.8m/( 秒)**2です。


さて、このグラフをじっとにらんでいるといろんなことがわかってきます。

まず第1はあたりまえなことですが、物理学はウソをつかないということです。

重くて初速のつかない大型機に高度を要求するのがムリなことがすなおに実感できます。

100Km/hくらいの初速では空気抵抗なしでも高度40mに達しないのですから。

次に空気抵抗による高度のロスをいかに低く抑え込むかが重要課題ですが、このことは後まわしにして、いっとき中学生のむかしに戻った気で、(1)式の周辺のオサライをしておきましょう。


以上を冷静に考察してみると、ゴム動力利用機の高度をきめるのはプロペラ機もパチンコ機も同じ原理、プロペラ効率や空気抵抗を別にすれば単純に機体重量とゴム重量の比率だけだということがわかります。

ためしに想像力を働かせて、F1G(ク−プ・ディベ−ル)級の10グラムのゴムで、F1G級80グラム、R級110グラム、F1B級230グラムそれぞれの機体を飛ばした場合の到達高度を想定してみて下さい。

さて、PLGの発射速度がどの位の値になるか興味のあるところですが、実測してないので正確なところはわかりません。

しかし、小型機では、60m以上の高度に達している実状速いものではからみて、150Km/hかそれ以上に達しているだろうことが想像できます。

しかし、3グラムの軽量機でも200Km/hを超えるというのはどうでしょうか。

小生はむかし、機体重量に対するゴム重量の比を極限にまで高めて行けば、音速にまで近づけそうに考え、その場合は加速時の特大gに堪えるために金属性の機体が必要かなど空想したこともありますが、近ごろはさすがに音速まではダメそうなことがわかってきました。

理由のひとつは、ゴムの収縮時の分子間マサツ、すなわち内部抵抗の問題で、ひとつはゴム収縮時のゴム自身の空気抵抗です。石井式スーパーPLGでは、いまのところ、取越し苦労にすぎませんが。

さて、問題は空気抵抗の削減策です。

PLGを扱って、仕事といえば抵抗をへらす作業とあとはパターン調整しかありませんが、抵抗をへらす作業というのは、手間さえいとわなければじつに簡単なのです。

というのも、このためのセオリーがもう解り切っているからで、次の3点だけです。


たったこれだけです。PLGの胴体などはただの棒ですから。どう作ったところで抵抗になりようがありません。主翼の高速時の抵抗をどう減らすかだけが勝負です。



(a)の翼厚の問題では、小生はほとんど全機5%厚としています。

翼型は滑空のところでまた触れますが、下面の平らなハンドランチ翼型TAMA5300を標準とします。

6%翼型えば、TAMA6300などにすると、目に見えて高度が低下するのがわかります。

じつは、純粋に高度だけのためなら、より薄翼、例えば4%とか3%とかのほうが良く、断面型も上下対象翼のほうが良いのですが、滑空ではいずれも不利になります。

また、高速直線上昇のためには、強度のほかにとてつもない高精度が要求されるので、あまりの薄翼は考えものです。



(b)のハイポイントの後退は、実機の層流翼と同じ思想です。打ち出し速度が秒速40mにも達するスーパーPLGでは、レイノルズ数も10数万の値になるので、立派に層流翼効果が期待できるのです。

高度だけのためなら、ハイポイントは30%より40%が良く、50%なら更によいのです。ただし、滑空性能の法は、そのぶん悪くなります。

ですから、翼型をどういじっても滑空が良くならない5グラム以下の小型機・超小型機には、滑空を捨てて、思い切った超薄型層流翼を験してみるのも面白いと思います。

ただし、あまりに速すぎ、高すぎて、飛ばしている本人が、一発で見失うことがないかどうかは保証できません。

PLGより大型のHLGでは、ハイポイント25%あたりに上昇と滑空の良いところがあるようですが、より小型のPLGでは、メリットがありません。

上昇はもちろん悪く、かといって滑空が良くなるわけでもないのです。

強いていえば、高度よりも滑空に期待するほかない大型機に、多少のチャンスはあるかも知れません。



(c)の翼表面の平滑化。これが最重要事項で、高速上昇を保証するカナメとなります。

翼の平滑度については、ちょっと言葉ではいえませんが、ハエが止まったら滑べるくらい、といっておきましょう。

実験してみればすぐわかることですが、表面の仕上げの異なる2機を用意して、弱いパチンコ・ゴムで軽くはじいてみれば、その手ごたえの差がわかります。

荒い仕上げのほうは、なんとなくグズグズと重く、鏡面仕上げのほうは、ピョンと勢いよく跳び出します。

比較的低速度の射ち出しでそうですから、境界層のごく薄くなる秒速40mの高速では、境界層マサツによる抵抗の差は甚だ大で、到達高度は大差となります。

ただし、翼表面の平滑化の効果も、上昇の終段滑空に入ろうとする直前あたりまでで、滑空速度ではザラザラな表面のほうがむしろ抵抗が少ない可能性はあります。

PLGの滑空レイノルズ数1万数千の空力世界では、境界層は相当な厚さに生長し、乱流効果を生み出すにはそれなりの表面粗さが必要でしょうが、低速、層流ハクリの空力域でツルツルの表面が滑空に良い筈はありません。

しかし、高度のためにはそんなことはいっておれない、というのが実情です。

速度差がヤケに大きいPLG世界には、ほかにも高速層流域→乱流域→低速層流ハクリ域と3つの空力域をわたり歩くPLGならではの特徴的な現象もあって、このあと釣合と安定のところでとりあげることにします。



3.テクニックその2・・・・・滑空


PLGについては、滑空だけ切離して策を講ずるということができません。


あくまで高度優先です。



滑空は良いが高度はダメという翼型もありますが、PLGには不向きです。

F1Bの場合ですと滑空に良い翼型はすべて上昇にもプラスに働くといい切れますが、そうウマくいかないのがPLGの悩みです。


滑空スピードが4m/秒弱、レイノルズ数1万数千のPLGの空力世界では、滑空の良い翼型は限られています。なかでも一番まちがいのないのが、カンバー4〜5%の薄型わん曲翼、ライトプレーンでおなじみのヤツです。


モケイの空力、臨界レイノルズ数の上と下とで性能が激変する幾多の翼型のなかで、こいつだけは臨界現象に無縁で、ということは大きさで性能が変わらないという空力界の異端児です。

とはいっても、レイノルズ数が小さくなればそのぶん境界層が厚くなってマサツ抵抗だけは増えますが。

紙ヒコーキの滑空性能が意外に良いのもこの翼型のおかげです。

小型ライトプレーンについても同様。

またもっと低レイノルズ数の例では室内機があります。


しかし、高速域でギリギリの低抵抗を狙うPLGでは、カンバー翼は不利になります。

使って使えないことはありませんが、総合性能でみてプラスはありません。

第1に、高度の低下に見合うだけの滑空性能の向上が得られません。

第2にパターン調整がきわめてやりずらくなります。

実は、PLGの滑空性能の向上を狙って、TAMA翼型を含むさまざまなカンバー翼を験してみましたが、満足できる1例にも出会うことができませんでした。


そしてその結果が、さきに述べました、TAMA5300、まことに平凡ながら現在のところ、これが小生の結論です。

アスペクト比の増大により、誘導抵抗を減らして滑空比を向上せよとは教科書の教えるところですから、これもいろいろと験しました。

スパン35センチ、アスペクト比12のダエン翼というのを試作しました。

おまけに超薄型カンバー翼という念の入れようでした。


結果はどうだったか?


たしかに、ナルホドという気配は感じられましたが、感激するほどのことはなく、ただ調整のむずかしさには往生しました。

これは極端な例ですが、PLGでは苦労してアスペクト比を増大させても思ったほどの成果は得られません。

理由は、どんなに薄翼であっても空力的に臨界領域の下限に当り、アスペクト比増大のプラスは寸法効果のマイナスでほぼ相殺されてしまうからだと考えられます。


ということで、適当なアスペクト比は5〜7あたり、まことに常識的ですが、そういう結論になります。

要するに、いろいろ凝ってみてもダメだということ、平凡な形が一番良いということです。



それでは、PLGの場合大型機と小型機では、どのくらい滑空性能の差があるのでしょうか。


大型機の場合は最大がスパン36〜40センチで15グラムくらい、小型機では最小がスパン15センチで3グラムくらいですが、これが意外なほど沈下率の差がないのです。

すなわち大型機でも沈下率毎秒70センチをなかなか切れませんし、小型機でも毎秒1m以上には悪くなりません。


どうやら、PLGサイズの機体では、臨界現象というブラック・ホールにガッポリ呑み込まれているらしく、残念ながらここから救い出す手だてがまだ見つからないのです。



4.テクニックその3・・・・・釣合と安定


この問題はパターン調整とも微妙にからむのでそちらで論ずるべきかもしれませんが、いっぽう設計上の問題でもあり、かつPLG機の動きの本質に触れるポイントでもあるので、独立した一項とします。

ここで正直に告白しますと、書いていてこの問題を解析するのが一番むずかしい。

小生の空気力学的理解を超える難題だということを痛感します。

これが飛行の現場ですと、空力的理解がどうであろうが作業を進めるのに一向に困りませんが、文章に書いて説明するとなると、そういうわけには参らない。

たしかに現象としてはそうであることを観察によって掴まえていても、なぜそうであるのか説明できないのでは、何とももどかしいものです。

という次第で、同好諸兄にもいっしょに考えてもらうということにして、勇をふるって未知の領域に踏みこむことにします。

スーパーPLGの機体の動きでフシギの第1は、垂直に上昇していた機体が上昇の頂点でなぜ何事もなくスムーズに滑空にいる、すなわち”かえり”ができるのかということ。

もうひとつは、パチンコ・ゴムによって射出された機体が慣性飛行中は矢のように直進し、自由滑空飛行に入ると、突っ込めば頭上げモーメントを発生して回復する、なぜいわゆる自律安定機能を持つのかということです。

機体のこのような動きは、有人であろうと無人であろうと、3舵を適切に操作しなければ本来は成り立たない筈、そんな高級な動きを、タネもシカケもない小型で簡単なPLG機がなぜこなし得るのか。

そこで小生はいろいろ考えて以上の2点を説明できそうな”仮説”をヒネリだしました。”仮説”ですから、ほんとにそうかどうか確信があるわけではありません。

のちにもっと上手な仮説を考えつくまで、とりあえずということです。

仮説のヒントは、PLG機の速度変化です。速度が変わる→境界層が変わる→空力特性が変わる。

すなわち、上昇中と滑空中では異なった空力環境にPLG機は在る、と小生は推論してみました。

さて、以上のことをざっと頭のスミに留めていただいて、PLG機の釣合と安定の問題にメスを入れることにします。

PLG機の釣合については、上昇と滑空に大別して考察します。

両者はまったく別世界の出来事であり、共通する何物もありません。

まずPLG機の上昇飛行から。ここで要求されることはただ一点、射出されたら矢のように直線に飛ぶ。これだけです。

ホンネをいえば翼は邪魔です。

余計な抵抗ですし、翼の働きがいろいろと作用して、直線で飛ばすことが容易でない。

ですからこの段階では直線飛行に邪魔な翼の働きを極力封じ込めなければなりません。

このため、主翼と水平尾翼の取付角差(インシデンス)はゼロとします。


いわゆるゼロ・ゼロセッティングです。



主翼も水平尾翼も下面の平らなTAMA5300あたりを使いますから、同一直線に下面を合わせれば良いので、簡単です。

ただし、主翼と水平尾翼も、ゼロ迎角がゼロ揚力角かというと、そうではありません。

上昇飛行中は主翼はゼロ迎角か、或はほんのわずかなマイナス迎角で飛ぶことが想像されますが、ある程度の揚力は発生します。

それで宙返りに入らないのは、水平尾翼の揚力が抑え込んでいるからです。

4輪車のレーステクニックに、前輪・後輪ともに横にすべらせて直進する、いわゆるドリフト走行というのがありますが、同じ原理です。

矢のように直進するからといって、主翼・水平尾翼ともに純粋に無揚力状態で飛ぶわけではありません。

もうお気づきのように、重要な手品のタネがここにあります。

さて、こうしてPLGは直線上昇をつづけますが、この間に速度のほうは打ち出しの超高速空からどんどん減速します。

いっぽう翼をとり巻く境界層は速度の低下とともにどんどん厚くなって、頂点に近いあるポイントまでくると、突如として主翼上面後半部分の境界層がハガレ出します。

質量制御から粘性制御へ移る境界、いわゆる空力的臨界領域に突入したのです。

翼面ハクリは、大迎角でしか生じないと考えている人がいますが、そんなことはありません。

臨界領域、あるいはその下の粘性領域では層流剥離といって、どんな迎角でもハガレは生じます。

上昇速度がおとろえた頂点近くで翼上面後半部ハクリが生じたらどうなるか、揚力を発生している主翼の揚力中心(風圧中心)が前進します。

ために直線飛行はここで終り、ここからは機首を上げてわずかに上昇に転じ、頂点での”かえり”の準備に入ります。

PLG機の上昇を一口に直線上昇といってしまいますが、しさいに観察すると波うって上昇することが、みてとれます。

このあと頂点での”かえり”から滑空に移るわけですが、そちらはまた”パターン調整”のところで。

滑空時になぜ突っ込み姿勢から頭上げモーメントが発生して回復するのかの説明には、上の”仮説”で更に押してみます。(Fig.2)


(Fig2)  PLG機の上昇時と滑空時の釣合の違い(石井仮説)

(1)は大レイノルズ数領域のためにハガレがないので揚力中心はかなり後退している。

(2)は極低いレイノルズ数領域のために、大ハガレが生じ翼後半部には働かず揚力中心は前進。回復モーメント大。



秒速4m弱の低レイノルズ数領域では翼上面の後半部分はもうほとんどハクリしていて、もちろん滑空は悪く、しかし揚力中心は上昇中よりずっと前進しているのだと想像します。

もしこの仮説が正しいとするなら、石井式パターンはPLGサイズの小型機専用で、滑空スピードでも翼表面のハガレの少ない大型HLG(伸びのある滑空でわかる)には応用がきかない特異現象ということになりますが、果してどうでしょうか。

小生の経験からすると、たしかにこの仮説を裏づける特徴はチラホラ見えまして、劇的に速度の変化しない大型PLG機では、パターン調整がやりずらく、小型機ほど容易という傾向があります。

もしそうなら、翼面ハガレがどうしても解決できず、滑空性能が伸ばせないPLG機の弱点は、石井式パターンのための必要コスト=税金かナ という気がしないでもありません。

PLG機の滑空時の釣合は、このように極端な揚力尾翼スタイルですから、突込みからの回復モーメントが決定的に不足で、突込んだらそれっきりということになりやすく、悪気流にヨワイのが難点です。

そこで、この弱点を克服するための対策を、あれやこれやとヒネリ出さねばなりません。

安定化対策を以下箇条書きに列記しますと、



主として以上の3点ですが、


(a)についてはむかしからの教科書に書いてある常識で説明の要はないでしょう。

水平尾翼容積は、1.5くらいが望ましく、最低でも1.2は必要です。

また、同じ値の水平尾翼容積では、モーメント・アームの多きい方により利があり、これももう常識でしょう。

レイアウト的にいえば、要するにタテ長の機体がよろしいのです。


(b)の上反角については、思いきって大きめにすべきです。

どうせ翼の効率が低いのですから、上反角による多少のロスの増加など問題ではありません。

大きめの上反角効果により、ローリング周期を短くし、ピンチからの早い立ち直りに期待します。


(c)の垂直尾翼の問題は、PLGの成否をにぎるほどのキィ・ポイントである上に、FF機の安定に関わる根元的な問題であるわりには、従来の教科書にとり上げられていないようなので、少しばかり踏み込んだ考察を試みたいと思います。

これは、FF(フリー・フライト)機の飛行とは何か、という問題でもあるのです。

FF機の飛行では何が望まれるかというと、長く空中に留まっていられることで、飛行の姿勢でも方向でもありません。

姿勢はともかく、飛行針路に責任がないというのがフウテン・ヒコウキFFの真骨頂で、実機も含めてほかにこんな例はありません。

これまで実機理論の影響下にあったモケイの安定に関する理論は、縦軸と横軸の安定のみ重視し、а、b両項に見られるような、第3の軸、ヨー軸(方向軸)の働きを不当に軽視してきたように思います。

小生の見解に従えば、ヨー軸(方向軸)の働きこそもっともダイナミックにFF模型の動安定を支配しているように考えられるのです。

言葉を変えれば、ゆくえ定めぬ旅がらす、針路・方向へのこだわりの放棄とひきかえに絶大な自律安定機能を獲得しているのがFF機の飛び方だということです。

あぶなくなったらヒョイと針路を変える。

これで姿勢を修正して何事もなく飛行を続けることができます。

これが自律安定機能の基本形で、針路にこだわれば、人が操縦しないかぎり破滅に突入するだけです。

さて、機構上頭上げモーメントが不足で(洗流角効果があるにしても)、タテの自律安定に弱味をかかえるPLG機としては、この方向軸の不安定性を極限までに安定化工作に利用します。

いったいにFF機の垂直尾翼は小さ目ですが、フツウのFF機を見慣れた人が不安がる位にPLG機の垂直尾翼は小さくなっています。

当然、滑空時の飛びぶりは軽度のダッチロール領域に入りますが(ヒラヒラ滑空)、実機と違って、FF機のダッチロールは、軽度である限りなんらマイナス要素はなく、不意の外乱に対してはむしろ強力な武器になるのです。

PLG機の極端に小さい垂直尾翼はまた、”垂直上昇→かえり”のパターン制御のための手品のタネでもあるのですが、これについては次節で述べます。



5.テクニックその4・・・・・調整


いよいよ石井式パターンの調整の実技に入るわけですが、ここまでのPLG機への理解があれば、あとはバカチョンで手順を踏めば良いという準備はOKでしょう。

調整は上昇から手をつけます。普通のFF機のように、滑空からではありません。

(パターン調整の手順)


1.機首のオモリで調整して適当と思われる位置に重心を決める(仮の重心)。


2.カタパルト・ゴムを弱く引いて、60゜くらいの発射角度で上方に打ち出す。

高度は10mぐらい。このとき、



(a)上方へ曲る

(b)直進

(c)下方へ曲る


の3態が考えられる。(Fig.3)

またこのとき、機体がねじれて進行することがあるが、このままでは調整が続行できないので、厳重にチェックして狂いを除く。


(а)上方へ曲る場合。

紙ヒコーキのように、水平尾翼を指でひねって修正することは禁物(時間がたつと戻る)。ナイフで水平尾翼に切り込みを入れ、水平尾翼後エンをわずかに下方に折り曲げてセメダインCなどで仮固定する。


(b)の直進場合は、そのまま。


(c)の下方へ曲る場合は、(а)の逆をやるが一度に大きくやりすぎないこと。


3.更に少しカタパルト・ゴムを強く引いて打ち上げる。高度は25mぐらい。

このとき、弱い打ち出しのときには発見できなかった各部の狂いがはっきり出てくるから、何度も修正をくり返して、完全に矢のように直進するまでテストを重ねる。

この段階でも、まだ滑空に手をつけない。


4.25mの高度まで直線上昇するようになったところで、滑空の調整をはじめる。

機首のオモリを調節して、重心を移動し、好ましい滑空姿勢をさがす。滑空は左セン回に調整するが、セン回の調整は原則として水平尾翼の傾き(スタブ・ティルト)で行い、垂直尾翼に触れることは厳禁。


5.更に少しゴムを強く引いて、40mぐらいの高度に打ち上げてみる。

このとき、発射角度を更に上に向け、ほゞ垂直に近くすると同時に、やや右方に傾ける。

これが大切。



このとき機体が直進するようであれば、頂上付近でわずかに右へそれ、スムーズに”かえる”はず。

そうならないときは、先へ進まず、まず矢のように直進するように厳密に修正をくり返す。そうでないと、更にパワー・アップして高度を狙うことができない。


6.カタパルト・ゴムを全力で引いて、50m以上の高度を狙う。小細工を弄せず。

以上の手順を厳密に守れば、パターン調整が完了することを保証します。

さて、以上が石井式パターンのバカチョン調整法で、誰がやっても成功する筈ですが、なお、補足したいことが2〜3あります。

まず、打ち出し速度が強烈なので、ヤワな機体はダメということ。次には当然ながら、工作にはものすごい高精度が要求されること。

150km/hで打ち上げて、ねじれずに直進する機体というのは、しかも長期間安定した精度を保ちつづけるというのは、そう容易なことではないのです。


調整の項のおわりに、垂直上昇の機体がなぜ頂点でスムーズに”かえる”のかについて、石井流の仮説を紹介します。

ここでもまた、垂直尾翼の異様に小さいことがモノをいっているのです。ほゞ垂直、やや右方に傾けて発射されたPLG機が上昇の頂点に近く到達したとします。

このステージでは、機体はすでに臨界領域に突入し、翼上面のハガレが始まっていて、わずかに上右方向に向きを変えようとしています。

速度はおとろえていても、なおタテ安定・ヨコ安定は強力ですから、こちらはまだガンバっていますが、最初に一番ヨワい方向安定がくずれ出しまず。

右へ傾けて発射されているので、右へ回頭を始めます。つづいてなお横すべりしながらエネルギーをたくわえ、更に右へムキを変えます。このようにして、方向不安定を積極利用してエネルギーを補充することにより、アクロバチックな”かえり”を実現します。

この際、翼上面がハクリして、針路を右上方に転じて失速することが、非常に有効に利いているように思います。


こうして文章にすると簡単なようですが、実態ははるかに複雑・微妙な空力ドラマが展開されているに相違なく、これだけ長期にわたって飛ばし、かつ観察していて、厭きることがありません。


6.製作例について・・・・・図は次ページにあります。


フツウの製作記事と違うので、ここではなるべく簡単に端折りたいと思います。

ここに紹介するPLGトレーナーは、グリーンパークのまったくの初心者を集めた講習会用に設計したもので、HLGの愛好者諸兄には、やさしすぎる位のものですから、講習会用のまま呈示してよけいな解説は省略します。


ところが、ビギナー用で誰にも簡単に作れるようにという設計にも拘らず、これが意外と性能が良いのですね。ごくフツウに作って高度50m以上、滞空1分は確実にいけます。

図には示してありませんが、長期に楽しむのなら、デサマ落下装置は必ずつけるのが賢明です。


構造簡単ですから、ふつうに工作して2時間弱、早い人なら1時間あれば形はできると思いますが、高性能を狙うためには、ここからタップリ時間と手間をかけることを覚悟しなければなりません。

まず、極薄和紙典具帖を主翼・水平尾翼・垂直尾翼にドープ貼りします。1時間ほどおいて更にドープの重ね塗りをし、また1時間ほどおいて乾かします。

次に600〜1000番くらいのサンディング・ブロックで磨き、磨き終ったら更にドープ塗りします。

このように、ドープ塗りと研磨を8〜10回繰返すために、3日から1週間くらいかかりますが、おかげで表面硬化により、翼表面はハガネのように硬くなります。

ですから、このことを見込んで、材料バルサは、比重0.1くらいの軽いもので充分です。

とくに尾翼関係は、軽量バルサをやや厚目に使うことが、軽く、丈夫に、しかも狂わないように作るコツです。


さて研磨仕上げの最後は、1000番サンディング・ペーパーの使いふるしで入念に磨きますが、鏡のようにツルツルにするのが理想で、とにかく手間と時間をかけます。

かつてのHLG界のオニ、黒川クン流のワックスがけも試みてはみましたが、このほうはどうも効果がハッキリしません。とにかくPLGは磨くのが仕事です。



7.変わり型PLGについて


以上は標準型デザインのPLGについて述べましたが、最後に変わり型PLGについて少し触れて終りたいと思います。


滞空性能を狙うなら、意外に性能の良いのが無尾翼機です。

このほうはさすがに直線上昇というわけにはいかず、しぼり上げるようなゆるやかなラセン上昇がベスト・パターンですが、完全調整に成功すれば、75秒ぐらいはいけます。

ただし調整は千番に一番のかね合いという感じで成功率は甚だ低く、このほうのバカチョン・システムはまだ完成していません。

無尾翼機の利点はサイズの割に軽量にできること(なにしろ、35センチスパンのものが、6〜8グラムでできる)。

パチンコ・ゴムの引きしろが大きいので、高速が出しやすいこと(胴体が短い)。

スピードは速いが滑空比が意外に伸びることなどです。

ただ、有効なデサマ装置がみつからないために、これまでの機体は10機以上、全部サーマルで無くしています。


変わり型の次の有望株は先尾翼型(エンテ型)です。

これもなぜか滑空性能が良く、気になって標準型と同じ翼のものを作って比較しましたが、エンテの方が滑空は伸びます。

理由をいろいろ考えて例によって仮説を立てましたが、このほうはまだ熟してないので発表しません。ただパターン調整はきわめてむずかしく、垂直上昇パターンというわけには参りません。可能性のあるスタイルなので、同好諸氏の研究にまちたいところです。



おわりに


紙ヒコーキには二宮さんの研究があり、HLGについてもこれまでいろいろの研究が発表されていますが、PLGについてはあまり聞きません。

なかなか魅力的なカテゴリーで、規格を決めて国際ルールで争われてもよい種目だと思うのですが、外国ではどうなのでしょうか。

本稿では小生がほゞ20年ほどかけて育ててきたパチンコ・グライダーについて、ひとつの区切りをつけるつもりでまとめてみました。小生の力ではこの先の発展は多くは望めそうもないので、同好有志の方の引きつぎを期待したいところです。<完>

1991.6.14



データと図面


●DATA

l=280,b=260,モーメントアーム=170

s=1.18デシ平方メートル,水平尾翼V=1.23, sh=0.391デシ平方メートル,W= 6〜8g

sh/s=0.33,W/S= 5.1〜6.8g/デシ平方メートル

A=5.7(アスペクト比)


●性能(計算値)

V=3.6 〜4.2m/s(cl=0.6), L/D=5 (推定)

沈下率0.72〜0.83m/s , 対空(高度40m のとき )48〜55秒


●フライトパターン

R−L, 上昇・直

線75°〜80°, 滑空・左,


●カタパルト発射用ゴム

4ミリ巾以上・約20センチ・ループ


●材料

ミディアムバルサ2.5〜3ミリ厚50×300, ソフトバルサ1.5ミリ厚40×150

ひのき棒 3×5×300, ひのき棒(前縁)2×2×300

他に、板おもり,#240サンドペーパ, クリヤドープ(クリヤラッカー)

超薄和紙典具帖(ソフトバルサ主翼のとき )


●工作用具(必要度順◎○△)

◎切出しナイフ,○カッターナイフ,○直角定規, ◎サンディングブロック(#240,#400,#1000)

○直線定規(大小), ○工作台(工作用下敷き)

○方眼紙(長辺30センチ),○のこぎり, ○小型カンナ,○ノギス

◎耐水サンドペーパー #1000,△計量ハカリ, ○ハサミ,△仕上用組ヤスリ,△彫刻刀

△塗装用具,△マーカペン,△マチ針等


単位:mm