電脳会報09号 連載2/2回(2002.09.18更新)                                         連載第二回


6.主翼の問題あれこれ

 私見では、日本独自といわれる竹ヒゴ製片面張りダエン翼は、小型機翼の優等生で、合理的かつ巧妙な翼構造であると、高く評価しています。構造きわめてシンプルで、軽くて丈夫でしかも性能が良い。小型の両面張り厚翼などは、あらゆる意味で遠く及びません。難点といえば、一種の竹細工であるために精度の高い工作には職人芸を必要とすること。大きさに制約があり、高性能を狙ったハイアスペクト翼に不向きなこと。竹ヒゴライトプレーンは、初級者が市販キットから雑に作ってもそれなりによく飛びます。片面張りカンバー翼の空力特性が本来的に優れているためです。ライトプレーン程度のレイノルズ数域ですと、厚翼では臨界レイノルズ数以下はガクッと性能が落ちますが、片面張りカンバー翼ではそういうことがなく、臨界レイノルズ数そのものがあいまいなことで知られています。レイノルズ数低下がそれほど性能劣化につながらないということは、逆にいうと、大型化による性能向上も期待できないことを意味しますが、それはライトプレーンとはまた別の話になります。
 4機の実作では、竹ヒゴ翼とバルサ骨組翼の双方を験しましたが、その優劣をいうのは微妙です。軽く作るにはバルサ翼組み有利が定説ですが、小生の実作ではそういう結論には至りませんでした。バルサ骨組み自体は軽いのですが、空気抵抗を考えたとき、その骨組みの太さが問題です。太いままのバルサ前後縁材が許容しがたい小生は、部材を1.5〜1.0ミリレベルに薄くして、しかも整形をほどこすので、幅広の整形部材の追加が必要になって、結果として軽量には仕上がらないのです。それでもまだ強度不足が気になるまま、下面に薄い3ミリ幅のカーボンを貼ることで、気分的にはようやく落ちつきました。バルサ骨組み翼を性能良く作るためには、ほかにも治具の用意が要るなど、結構手間がかかって大変です。
 その点竹ヒゴですと、良く枯らした良質の竹ヒゴを使えば、細くともしなりが効果的に働いて、これが昨今はやりの柔構造、結構な強度を保てます。これにもマメにバルサ片付加で整形をほどこせば、さらに理想翼に近づける筈ですが、ダエン翼では工作がめんどうで、そこまでは手が回りませんでした。材料的に、現時点考えられる最良はたぶん極細のカーボンテーパーパイプかと思いますが、小生まったく興味がありません。これは気分の問題に過ぎませんが、ライトプレーンには竹ヒゴが良く似合う、カーボン翼なんて、と違和感が強いのです。

 翼断面についても、A機、B機、C機、それぞれ違えて試みましたので、話はちょっと細かくなりますが、報告しておきたいと思います。
 竹ヒゴダエン翼のA機は、総重量40グラムの2翅折畳みプロペラ機ですが、中央コード11cm。この機ではリブ間のタルミ・ヘコミを考慮に入れて、ハイポイント35%、カンバー8%とやや深目にしました。
 松本杯規格に合わせたB機はバルサ骨組みで総重量27グラム、中央コードは10cm。1翅折畳み式ですが、この機はハイポイント35%、カンバーは6%とこれはまあふつうです。
 A機、B機ともにライトプレーンとしては標準的な翼断面ですが、C機だけが極端に違っていました。C機はたくさん量産している仁木工房から貰いうけた1機で、これで空転式で3分を狙ってみようという機体です。
 C機はB機と同じデザインのバルサ骨組み翼ですが、貰いうけた時点での総重量は31グラム、これには直径21cmの青い市販プロペラがついていました。この機の翼断面が、何らかの意図でそうなったと推察するのですが、ハイポイント25〜30%と前寄りで、約10%カンバーと超深いカンバー翼だったのです。
 A、B両機については、誰もがやるありふれた翼断面ですので、とくに記したいことはありません。しかし、C機については、翼断面が特異なことと、この翼で空転式による滞空3分狙いという事情が重なるので、勉強になったというか、いじり甲斐があったこの機で小生が何をやったかを記してみる価値はありそうに思えます。
 C号機は、性能要求がおそろしくきつかったので、プロペラはもちろん、尾翼も胴体(カーボンパイプです)も、主翼だけを残して、全部作り替えました。主翼を残したのは、バルサ骨組みの深いカンバー翼で、どれだけの改造ができるか験してみたかったからです。
 紙貼りのすんだ完成翼なので、整形には手間がかかりました。2.5〜2.0ミリ角ほどのバルサ前後縁材は、1.5〜1.0ミリ程度に薄くします。クサビ型断面の補強整形材を内側に貼りつけて、段差をなくします。前後縁をシャープに整形して改造は終りですが、強度の低下が気になって下面全域に薄いカーボンを貼りました。改造でいくらかカンバーを浅くできた筈ですが、これでも10%カンバーが残ったのは、元々のカンバーがものすごく深かったのです。
 さて、A機8%、B機6%、C機10%と、それぞれカンバー深さの異なる翼断面の空力特性の違いですが、困ったことに、これがどうもハッキリしないのです。A、B両機はまあふつうの翼型ゆえ特徴的な現象が表われないのは当然として、カンバーが深くて心配だったC号機も、ふつうに上昇するし、ふつうに滑空もするのです。どうにもライトプレーンの翼型空力特性はボケたかたちでしか表現されないようなのです。これを要するに考えられる答はひとつ、全機の空力特性が悪すぎて翼型特性が目立たないため、と小生にはそれ以外の解釈ができません。
 ライトプレーン翼の紙貼りの問題。これは恥かしいので小声でいうのですが、小生和紙のドープ貼りに慣れて片面翼が不得手、とかく強く貼りすぎてしまうキライがあります。そこで全機とも紙貼り上手の仁木さんに依頼しました。仁木さんは事前に用紙を湿らせて十分に縮ませ、色紙(たぶん洋紙)を組合わせてフックラと上手に貼ってくれます。おかげで、湿気にも乾燥にも片面翼のイヤな狂いから開放されて、わがライトプレーンいじり気分は快適です。


7.3機3様のプロペラについて

 プロペラについては、上昇性能のキメ手になる要所ですし、3機3様を試みましたので、少していねいに記述します。ゴム動力機いじりの面白さは、何といってもプロペラです。

 1)A機、2翅折畳みプロペラの場合
 A機のプロペラは、機体重量が40グラムなので、すでに多数製作例があり、性能のわかっているミニクープ級機との比較で考えました。ミニクープ級で出来の良いものは、揚抗比9を超えているとみていますが、揚抗比7もおぼつかないA機では、どの位割引いて対応したらよいか。最近の良質のゴム使用ですと、ミニクープ機の上昇高度は、だいたい60〜65mぐらいです。ゆえにA機が100m高度を望むならば、最低でもミニクープ級の倍量、10グラムゴムが必要という計算になります。搭載ゴムは10グラム以上、これがA機のプロペラ設計の基本条件として、ミニクープ級に倍量するゴムをどう使いこなすか。
 ゴム量が増えるので専用プロペラを新作すべきと考えましたが、とりあえず各種手持ちしているミニクープ用プロペラで験してみることにしました。P370/D300、P380/D320、P400/D340などです。ゴム束はミニクープ級の8条に対して、A機では10条、捲数はゴムにもよりますが、標準600回ぐらいを予想します。小生の小型機では、プロペラシャフトもアウトリガーヒンジも1.6mmφピアノ線で統一しているので、プロペラ差替えは容易です。
 直径300ミリのプロペラでは、猛烈な勢いで垂直に近いロール上昇をします。あきらかに過剰パワー状態で、速度の自乗で空気抵抗が増える高速度上昇が効率が良いとは思えませんが、見ている限りでは麻薬的な快感があることは事実です。
 直径320ミリのプロペラでは、いくらか速度はおとなしくなりますが、まだ垂直的な上昇をします。モーターランは約40秒で、直径300ミリプロペラより3〜4秒伸びます。
 直径340ミリプロペラに至って、ようやく並みの上昇姿勢に近付きます。それでも、なお相当な急角度上昇です。ミニクープ級の8条ゴムに較べて10条ゴムがそれだけパワフルである証拠です。
 上昇高度ですが、どれがいちばんかはハッキリしません。どのプロペラでもゴムが良くてフル捲きで、上昇パターンが完調ならば豆粒大の高度に上昇しますが、優劣の判定が出来ません。小生自身としては、直径300ミリプロペラの人を酔わせる麻薬的な過剰パワー上昇が気に入っています。
 主翼スパンとプロペラ直径が近接する(小生のA機では58〜65%)大出力のライトプレーンでは、主翼とプロペラが互に相手を回そうとするので、急角度上昇ではヘリコプターに似たロール上昇になります。A機のゴム搭載量比率は約25%ですが、更にゴム量を増していって、どこまで破綻なくロール上昇が行なえるか興味はありますが、いまそれを実験する気はありません。それをするには、たぶん全面的な設計上の改訂が必要かと考えます。生前、岡部ライトプレーン名人が言っていました。ゴム36%まで験してみたけれど、良いことはなかったヨと。


 2)B機、1翅折畳みプロペラの場合
 最近、ゴム動力競技機の世界ではまったく見かけなくなった1翅折畳み式ですが、いったいどういう利害得失があるのか、それを確認したい意味で、松本杯競技規格のB機に採用してみました。B機については図面なしなので、大よその諸元を示しますと、次のようになります。 スパン45cmのバルサ骨組角翼で主翼面積3.4du、全長52cmのカーボンパイプ胴で、機体本体重量は20グラム。これに7.5グラム(ゴム束は8条)のゴムを積みますから、全機重量は27.5グラム、ゴム搭載比率は27%となります。これにA機と同じミニクープ用のP370/D300のものを、1翅仕様で取付けました。これを2翅仕様に換算すると、2の5乗根分の1倍ですから、直径26cm相当ということになります。ゴムの最大捲数は約650回ぐらいです。
 飛ばしてみると、ゴム搭載比率からいってA機を上回る大動力機ですから、A機と甲乙は言えない高速垂直上昇をします。それはいいのですが、大型の昆虫のように機体をふるわして飛ぶブルブル振動が取り切れないのが悩ましい。デサマヒューズを振り落として、1機失ったことは前に書きました。
 では、1翅プロペラの利点はどこにあるのか。空気力学的な利点は2つありまして、ひとつは2翅プロペラの(3翅、4翅となればなおのこと)ブレード相互間の干渉が防げるということがあります。翼の場合なら、複葉より単葉が優れる理屈です。もうひとつの利点は、同じトルク、同じ回転速度なら、1.15倍大直径のプロペラが使えるということです。同一推力なら大直径プロペラほど効率が良いという基本セオリーがありますから、ブルブル振動さえ解消できれば1翅プロペラ有利に疑いはないのですが、さて現実の得失はどうなのか。
 1翅プロペラのダイナミックバランスの悪さは、原理的なものですから、これをテクニックで解決することは出来ません。マネして取組んだ仁木さんほか約1名も、結局あきらめてやめてしまいました。片側が推力と遠心力、反対側が遠心力だけという力学的構成ですから、スリコギ運動の防ぎようがないのです。問題は、上昇時の振動による抵抗増加という代償を払っても、なお差引きプラスが残るのか、ということですが、これがまたどうもハッキリしません。小生の見解を申しますと、あらゆるゴム動力種目に適用できるとは思いませんが、元々の負荷抵抗の大きいライトプレーン種目では、1翅プロペラというのは、案外悪くないんじゃなかろうかという気がします。小型の1翅プロペラのB機が、やや大型の2翅プロペラのA機と甲乙つけがたい高度に上昇するのを見て、そんな気がします。また別の小さな利点をあげれば、1翅折畳みプロペラの方が、滑空抵抗が少なそうなこともです。

 3)C機、空転プロペラの場合
 理由あってこの機だけが空転式です。そのイキサツは前に書きました。ありふれてつまらない空転式でも、これに滞空目標3分と縛りがかかったとたん、面白くなります。A機もB機も具体的に滞空何分という目標はなかったので、C機への取組みがいちばん手応えがあったというか、勉強になったといえるかも知れません。
 岡田サンの説によると、空転式で3分滞空のためには、上昇高度で100m、滑空沈下で毎秒70cmを実現しなければいけない計算だそうです。高度100mも難しいが、沈下70cmも難しそうです。小生の見当では、どちらかといえば、滑空沈下70cmのほうが難しそうに思えました。 そこで戦略です。
 プロペラの設計では、上昇性能優先ではなく、滑空沈下優先で考えます。空転時抵抗が最小で、しかも上昇性能を損わないプロペラを得るには、どうしたら良いか。
 この機はB号機と基本設計は同じですが、製造元は仁木さんです。滞空3分目標とあって、張り切って徹底チューニングを試みました。改造後の本体重量は19グラムと、だいぶん軽くなりました。動力ゴムはB機と同じ7.5グラム、ゴム搭載比率は28%強で、ゴム束6条で使います。 最大捲数は900回ぐらい。
 プロペラ直径はいろいろ考えた末に、260mmに決めました。最大ブレード幅は22mmと超細身スタイルとし、中央付近は強度の許すかぎりスリムな形にしぼります。プロペラピッチは空転時抵抗を考えると極力大きくしたいが、上昇を考えるとそうもゆかず、P320ミリと標準的な線で妥協しました。上昇と滑空の双方を睨まなければならず、難しいところです。プロペラは特別な設計は行わず、ありふれたマックスウェルタイプブロックからの削り出し(参考資料は コチラ)、強度を考えて材料は良質なヒノキ材です。
 さてC機の性能ですが、ゴム捲数は900回に及ぶものの、やはりプロペラ効率に劣るせいか、上昇高度はA、B両機に1歩譲るようです。それでも見ている人は滞空3分は確実だといってくれますが、小生それほど楽観的ではありません。10%カンバー翼の滑空スピードはおそろしく遅く、(揚力係数Cl=0.85を想定)空転プロペラの回転もゆっくりですが、どうにも滑空比が伸びてくれません。岡田サンの主張に降参するようで残念ですが、50秒近いモーターランを加えても滞空性能の実力は、2分30秒を超えるあたりで、3分には届いていないんじゃないかという気がします。以上は貰い物の機体で試みた、空転式による滞空3分への挑戦ですが、もう少し巧妙なやり方があるのかも知れず、空転式で滞空3分はムリの結論はまだ早いんじゃないかと考えます。小生の挑戦はここまでですが、たとえばカンタンな話、もう少し機体を大型化してみたらばどうか。

8.調整の問題

 調整では大失敗をやらかしました。小生のガンコな思い込みゆえにです。どういうことかといいますと、小生はライトプレーンだけはオードラダー無しの右―右フライトパターンが成立する筈だと思い込んでいたのですが、それがそうではなかったのです。右―右パターンが成立するなら、右スラストの切れ角が小さくてすむのがカッコイイし、軸受けの機械マサツも少なそう。 小生の仮説としては、主翼スパンとプロペラ直径が近接する大動力のライトプレーンでは、大トルクによる上昇時の左ロール特性が、右スラストによる右ウィングオーバーモーメントを相殺すると、都合よく考えていたのです。それはまあいいのですが、滑空時に右旋回のためのラダーの右曲げが、高速上昇時にすさまじい右ロールモーメントを引き起こすとまでは想像しなかったのです。A機もB機も同じ傾向でした。滑空旋回用にラダーを少し右に切って、ほんのわずかな右スラストでやりますと、ゴム捲数400回ぐらいまでは、まことに見事な上昇をします。 しかし、そこからが難しい。捲数450回ぐらいから、発航直後に右に這いずるようになり、捲数500回ではどうかすると、突如として発狂して、右ウィングオーバーで地面に突込みます。結局、右―右方式では、最後まで(つい最近まで)フル捲き飛行が出来ませんでした。シリコンダンパー利用の簡易型オートラダー装置を付加するなど、未練たらしく右―右パターンにこだわったのですが、だめでした。A、B両機とも、今では大きく右スラストを切って、まあなんとか支障なく、右―左パターンでやれています。(C機は最初から右―左パターン。)けれども小生はなお未練というか、ライトプレーンに限りオートラダー無しの右―右パターンは成立する筈だというこだわりから自由になれていません。ラダー右曲げ以外の右旋回滑空がやれないものか、などと考えているのです。

9.むすび ―ライトプレーン人生だってステキです―

 以上に見てきたように、ライトプレーンというのは、構造的な負荷を抱えるヒコーキです。大きさも自由、重量も自由、動力ゴムだって好きなだけ積んでいいよといわれても、国際級機のように効率良くは飛んでくれません。それなら国際級はやらず、ライトプレーンだけの模型ヒコーキ人生に実りがないかといえば、そんなことはないと思います。効率の悪いライトプレーンをもっと良く飛ばそうと、そこにこだわる模型ヒコーキ人生があったっていい。何をやるかではなくて、要は志の問題と考えます。
 小生にはとくに専門種目というものはなく、面白そうなら何にでも手を出すクチですが、何の種目であれマジメに取組めば、その種目なりの奥の深さがあり、手応え感があるということを、経験から学んでいます。
 やればライトプレーンだって面白い。たとえば故岡部禮雄さんのように、主義としてライトプレーン以外はやらないが、勝負すれば国際級にだって負けない、そんなツッパリの「サムライ・ライトプレーニスト」がいたって、それもなかなかにカッコいいんじゃないでしょうか。もっとも、かりに泉下の岡部名人が生きかえってこられても、いまのF1B相手ではちょっと、という気はしますけれども。
 以上、門外漢の小生がわずかな機数のライトプレーン経験で、生意気なことを書きすぎたかも知れません。小生自身はいまやるテーマのタネが尽きていて、小休止状態です。ライトプレーン愛好家諸兄のご参考になるならと、これを書きました。(2002.7.19)