電脳会報09号 連載1/2回(2002.09.18更新)                                         連載第一回


1.やればライトプレーンだって面白い

 ライトプレーンのお話で一席うかがいます。このところ何の風の吹き回しか、ライトプレーンいじりにハマっておりまして、その報告です。
 いまどきライトプレーンの話かといわれそうですが、なみの製作記事とは違うぞ、本邦初の「ライトプレーンの空気力学的研究」だぞ、というわけで、石井流ライトプレーン談義をやらせてもらいます。ニッポン式模型ヒコーキの原典みたいな国民的モデルをネタにひと理屈こねてみたいわけでして、ま、“気まぐれFF文化論”の番外編というところでしょうか。
 手がけたのは結局は4機になりましたが、1機をサーマルに持って行かれまして、実質は3機、3形式です。仕様がそれぞれ違いますから、製作順にA機、B機、C機とします。
 代表して図面に示したA機(図面は コチラ です)は、これはごく普通の竹ヒゴによるダエン翼。ミニクープなみの総重量に倍量10グラムのゴムを積む大径のプロペラ(図面は コチラ です)折り畳み機。高々度に引っ張り上げて、長時間滞空を狙います。
 B機はやや小型でスパン45cmの角ばったバルサ骨組み翼機。奈良平城京の松本杯競技規格に合わせたものですが、これには1翅折畳みプロペラを趣向してみました。ブルブル振動が取り切れずにこれが災難の元だった、というのは、出来上って初期テスト早々にデサマヒューズを振り落として、そのまま上空高く消えてしまったのです。1機ムダにして、こりずに同じものを作り直したのが現存のB機です。
 最後のC機はちょっと事情が違いまして、これは完全自作機ではありません。プロペラ空転式ですが、貰い受けた完成機をベースに、空転式による滞空3分目標に向けて、徹底チューニングを試みたものです。デザイン的にはB機と同形ですが、元の製作者は量産で機体を余らせている瀬谷で飛ばし仲間の仁木士郎さん。
 空転式というのは滑空時のプロペラ空転抵抗が大きく、沈下がおそろしく早いのが小生の性分に合いません。空転ぎらいの小生がなんでまた空転かといいますと、これには岡田光正サンというちょっと小ウルサイつきあいがらみのイキサツがあります。6月はじめ、平城京競技の同行中のいつでもどこでも、宿舎でも競技場でも帰りの途次の会食の席でも、「空転では3分は飛ばない」とグリーンパークの親分に繰り返し強弁されたものですから、ちょうど貰ったヒコーキがある、それなら3分飛ぶか飛ばないか験してみるか、となったものです。(ちなみに平城京のフライオフはいきなり3分でした)
 このように3機仕様を変えていろいろ試みたので、書きたいことはたくさんありますが、この文ではとくに空力問題に重点をしぼって、自説をひろげてみたいと考えます。


2.いまライトプレーンの理由(わけ)

 わが国模型界のアイドル、1本胴のライトプレーン。模型飛行家ならずとも日本人なら生涯に1度や2度は作るライトプレーンですが、小生自身はこの種目の愛好家というには遠く、思い返しても数えるほどの製作経験しかもっていません。その小生にしていまなんでライトプレーンかといいますと、半分は気まぐれですが、強いて理由をというなら、昨今の動力ゴムの質的向上がいくらかの動機になっています。
 模型用エンジンも電動モーターも、最近の質的進歩にはめざましいものがありますが、動力用ゴムだって負けてはいません。ゴム性能の向上ぶりは、最近のF1B国際級競技の現場を見ればわかります。
 ゴム動力機競技の代表F1B競技の歴史はゴム量削減の歴史で、戦中から戦後にかけての無制限時代はさておき、80グラム、50グラム、40グラム、35グラム時代を経て、今年からいよいよ30グラム(全備重量の13%)時代を迎えました。小刻みにゴム搭載量が減らされて、ではその都度F1Bの性能が落ちたか?フシギなことにこれがNOです。キビシイ条件をハネ返して、上昇高度はなお100m近く、滞空5分をクリヤーしてみせるこの春の板倉競技の現実を見るにつけ、機体もそうだが動力ゴムも良くなったもんだの感を深くします。それなら最近のゴム使用で、機体重量にもゴム重量にも制限なしのライトプレーンをマジメに作ったなら、いったいどれ程飛ぶものかという興味は当然生れます。
 何事もやってはみるもので、作って飛ばして験した結果は、率直にいって次の感想に尽きます。ゴムが良ければライトプレーンだってなるほど良く飛ぶ。しかしコイツはなんと非効率な飛行物体なんだと。ついでにもうひと言。やる人の上手下手じゃなくて、生得のキャラクターなんだから、もうどうしようもないと。
 趣味の世界でこういうことをいっていいものかどうかはわかりませんが、小生は「手抜き」思想の信奉者です。「手抜きこそ技術の粋」、「最高の技術は手抜きにあり」、そう考えています。べつにズボラがいいと言っているわけじゃなくて、計算して効果に大差がないなら、より簡便な手法でやるべきだと、そういってるだけです。その手抜き思想の信奉者の小生が、ライトプレーンいじりに当たっては、これは手抜きが出来そうもないナと覚悟しました。なにしろ元が悪すぎる。このうえ手抜きでは、どこまで悪くなるかわからない。ライトプレーンという飛行物体の素質は、テンからそう思わせるものがあるのです。

3.追憶の岡部ライトプレーン名人

 専門家でも愛好家でもない小生ごときが言うのもナンですが、このライトプレーンという種目、国民的人気で、手がける人大ぜいの割には、技術的進歩に縁がうすく、およそ変り映えしない種目のように感じられます。いまなお袋入りキットが各種売られているなんてことは、そこらへんにまた良さがあるのかも知れませんが、ものみな進歩の時代に、そこだけ風化の一角とは、どう受けとればいいのか。
 しかし、小生の知る限りという条件つきですが、抜きんでてこの種目の研究家・専門家と目していい人物がたしかに居ました。居ましたと過去形でいうのは現状にうといからで、もし不勉強ゆえの独断でしたらお許し願います。
 世にライトプレーン愛好家は数多く、模型ヒコーキといえばこればかり、という人もかなり知っています。しかし、時流を抜いたスペシャリストとなると、さてどうか。
 知らない人は知らないが、ライトプレーンといえば知る人ぞ知る岡部禮雄(のりお)さんという人がいました。その毒舌家ぶりが愛された往年のグリーンパークの主で、ライトプレーンの真の専門家といえば、まずこの人です。
 どういう競技ルールだったかは知りませんが、もう20年ほどもむかし、大宮たんぼの競技会で並みいるF1B級の猛者連相手に岡部式ライトプレーンで立ち向かい、ことごとく打ち負かしたというのが岡部老終生自慢の口ぐせで、(不在の石井さんを討ちもらしたのが唯一の心残りとは少なくとも20回ぐらいは聞かされた)そのことはともかく、わが国独自ともいえる竹ヒゴライトプレーン形式は、岡部モデルをもってひとつの頂点に達したというのが、いまも変らぬ小生の見解です。方式完成者への礼節ということもあって、岡部老の存命中は小生遠慮してライトプレーンに手を染めることはなかったのですが、いまここに発表するものも小生の独創はなく、技術の流れは岡部方式に沿うものであることを表明して、この文を今は亡き岡部ライトプレーン名人の霊に捧げたいと考えます。

4.「揚抗比」で考える

 以上は長い話のマクラで、ここからが本題の技術論になります。ありふれたライトプレーンにまで空気力学的考察が必要かといわれそうですが、何であれ空を飛ぶものを効率的に飛ばすためには、それが要るのです。
 空力的にかんがえるとは「揚抗比」で考えるということです。分子が揚力(L)で分母が空気抵抗(D)、そしてL/Dが揚抗比。
 揚抗比というと何か掴みどころがないようですが、ほぼ等しい滑空比に置き換えてみれば、滑空状況の観察で誰にでもただちにわかります。飛行効率の良し悪しは滑空でわかる――この基本FFセオリーはこのあと繰り返し強調するすることになりますが、それというのも、ライトプレーンの揚抗比ときては、お話にならないほどひどいのです。
 空気力学的にいうならば、小生はライトプレーンというのは空気抵抗のカタマリである、と認識しています。けれども世の多くの愛好家にこの認識が見られません。というのも、手にされる模型がそう語っているからです。ふつう、ライトプレーンの性能アップ策というと、軽く作ることばかりが強調されますが、大事なことを忘れています。軽量化はもちろん大事ですが、ムダな抵抗を削って揚抗比を改善することのほうが、よほど効果的な手段だということが、意外なほど認識されていません。
 ライトプレーンの揚抗比がどの位悪いのか?揚抗比の優等生F1Bとの比較で考えるのがわかりやすいと思います。小生のみるところ、最近の一流F1B機ならば、おそらく揚抗比16ぐらいのレベルには達しています。F1B級ぐらいのレイノルズ数域で、それが実現出来ているということは、極微な有害抵抗まで入念に削られて、機体がリファインの極に達していることを意味します。翼面荷重14グラムと重い機体が、機重の13%と微量のゴムでも、高い揚抗比ゆえにあれほども飛ぶのです。とどまるところを知らない空気抵抗削減の執念は、細くて薄くて折れそうな超ハイアスペクト比翼にまで及び、わずかに残留する誘導抵抗まで許さじといっているのが現状です。意気込みはわかりますが、しかしいくらなんでもF1B級でアスペクト比25なんて、やりすぎじゃないかと小生なんかは思うんですけれども。
 ひるがえってライトプレーン族の空力マインドはどうなのか。こちらは別世界、あちこちムダな抵抗を引きつれて飛ぶライトプレーンは、最良のものでもF1B級の半分の空力性能、揚抗比8さえ怪しいんじゃないかと小生はみています。大方は揚抗比5か6あたり、上昇時と滑空時ではちと事情が違いますが、プロペラ空転機の滑空ときては最悪、毎秒沈下1m超えなんて珍しくないんではないか。要するにライトプレーンというのはF1B級の3〜4倍は空気抵抗の大きい飛行物体で、倍量比率のゴムを積んでもF1B級の滞空性能に及ばないのは当然、ゴムエネルギーのオイシイところを空気抵抗に食われてしまっている結果にほかなりません。

5.空気抵抗はこうつぶす

 ライトプレーンの空気抵抗がどうしてこんなに大きいのか。勘案するに、特定のどこがということではなくて、各部の造作(つくり)が粗雑で洗練を欠いている、そうとしか考えられません。 小さな部分抵抗が多数積み重なって、総体として大きな抵抗成分になっている。そうだとすると、理論や設計デザインで解決できる問題とは違うように思われます。空力センスと“カン”、加えてどんなわずかな部分抵抗も見逃さない執念深さ、それらがうまく機能するとき、ライトプレーンの性能改善策が成功するのだと考えます。
 小生の場合はどうしたか。理論とかデザインとかそういうことではなくて、空気流れからみた機体各部のアラ探し、造作カンタンなライトプレーンではそれしかないと考えました。タテ・ヨコ・ナナメから良く見て、空気流れを阻害しそうな不良箇所を見つけます。そうすると、このままは捨ておけないと感覚に引っかかる小突起などいくつか見つかりますから、丹念に削るなり整形するなり、気のすむまで手間をかけます。ただもうそのことの繰り返し、辛気くさい作業で、設計図面にカタチとして表せる種類のこととは違います。
 具体的に胴体のアタマのほうから見ていきますと、バルサでもヒノキでもカーボンパイプでも、胴体そのものは単なる1本の棒ですから、ここはまず問題なしとします。機首、軸受けについては、スラスト調整がやり易い着脱式が便利ですが、出っ張りはなるべく小さくスマートに。主翼の取付け部が要注意箇所で、パラソル翼ではパイロンは流線型に整形すること。また、翼を高くしすぎるのはムダというよりも空力的に有害で、翼台は小さくスリムなもので十分に間に合う筈です。
 胴体後部にいって、尾翼部分がまた問題箇所です。出来ることなら後モーメントアームを長く取って、尾翼は小さく作るべきですが、ライトプレーンではそうもゆかず、ここが大きな抵抗成分になります。また、尾翼と胴体の結合部分も空気流れからみて、イヤなところです。眼に見えにくい部分ですが、小生にはいつも、気になって仕方がありません。残るは主翼とゴムとプロペラですが、これはまた別に扱います。
 主翼の抵抗削減策についてはこのあと書きますが、主翼についても細かくやれることはあります。それからプロペラについても。とくに空転プロペラについては、工夫の余地がありそうに思えます。それでは、このようなチマチマとした細かい抵抗削減努力がライトプレーンの実際の飛びぶりにどれ程の効果があるのか。
 効果はハッキリあると保証出来ます。上昇性能・滑空性能双方ともにです。しかし残念ながらライトプレーンでやれるのはここまでです。最大の「抵抗勢力」を除去することは出来ません。 ライトプレーンの抵抗勢力の親分は露出したゴム束で、振動してゴムがほどける上昇時と滑空時では様子が違いますが、これがどれほど大きな抵抗勢力になっているものか、ちょっと想像が出来ません。ライトプレーン生得のキャラクターで、空気抵抗のカタマリと小生が言うのはこの意味です。ついでに言うなら空転式の大きく垂れ下がるゴム束、これも何とかならないか。(以下、次号へ続く)