※「坂巻・石井のF1G(クープ級)新作について」坂巻敏雄・石井英夫・連載第3回(更信2002.02.**)
        連載 第三回

■F1G級の新作2機をまとめて発表します.発表のスタイルは,設計・製作の主要技術課題について,両者のコメントが併記される方式です.なお,データ毎にリード文の部分は石井です.
INDEX
A)前書き / B)どのレベルの性能を狙うか / C)どの大きさに作るか   ※以上02号に掲載分⇒Link
D)主翼設計上の諸問題 / E)@ 縦横比 / F)A 翼断面 / G)B 翼構造と工作 /
H)C 主翼の問題その他のこと …石井 坂巻                 ※以上03号に掲載分⇒Link

I )可変ピッチプロペラは果たして有効か … 石井  坂巻
J)可変ピッチプロペラの実技 … 石井  坂巻
K)残りの問題あれこれ … 石井  坂巻

        

(A)可変ピッチプロペラは果たして有効か


※石井意見 可変ピッチはやっぱり有効です
 べつに食わず嫌いというわけではないのですが、F1Bの世界から離れているせいで、どこか可変ピッチプロペラの有効性を軽視しているところがありました。こんど出口工房製の可変ピッチメカを験してみて、考えが変わりました。可変ピッチはやっぱり有効です。
 問題は発航時の過剰エネルギーをムダに捨てずにどう活用するかにあるわけですが、本質的には、直径の5乗に比例してパワー消費が可能な可変ダイヤ(可変直径)プロペラしか問題解決はあり得ない、というのが石井の持論でした。しかし何事もやってはみるもので、不完全ではあるものの、可変ピッチ機構でも相当程度過剰パワーの吸収が可能なことが実感できました。ピッチ分布がどうの、先端失速がどうのと細かいことを言う前に、固定ピッチでは、とにかくムダに捨ててしまう初期のエネルギーが大きすぎる、というのが実状のようです。可変ピッチプロペラがどの位有効かは、たとえば低速ギヤでフルパワーで走るような固定ピッチ飛行から、捨てられる初期パワーを拾い上げてどれだけ前進力に転化できるか、やり方にかかっていると考えます。


※坂巻可変ピッチの経験から
 VPPの調整要素は3つ、ピッチコントロールのスプリングの強さ、プロペラピッチの初期設定、最大変位角です。プロペラ自身の適否はこのさい考えないでも、未知数3の方程式を解いていくようなもので、未知数1の固定ピッチに比べたら遥かに手間のかかる試行錯誤を繰り返すことになります。コスト・パフォーマンスならぬ、労力・パフォーマンスといった尺度をもって評価すれば、可変ピッチは固定ピッチに数段劣ります。よりよいセッティングを求めて、セットを変更していくと、スラストまでも変えることになったりして、まあ延々と楽しい作業が続くことになるのであります。こんなことやるのが好きな人にVPPは適。


(B)可変ピッチプロペラの実技
※石井の新型超細身(直径420ミリ、ブレード幅26ミリ)プロペラについて
 プロペラのことは、動力源であるゴムとの関係を離れては語れません。石井の場合はゴム束12条方式でずっと通していますが、取材して回ってみますと、14条派もけっこう多く、両派半々か、あるいは14条派がやや多いぐらいの感じです。理屈を持ち出せば、14条派は大直径のプロペラ効率に期待を賭け、12条派は細いゴム束使用で、エネルギー蓄積効果はこちらが上だ、というわけですが、実質的に優劣は不明で、好みの問題と片づけて差支えなさそうです。
 さて問題は可変ピッチプロペラです。
 出口製可変ピッチメカは小さくまとまって良く出来ていますが、石井にはまだうまく扱い切れているとはいえません。捲きトルクに応じたスプリングのたわみを調節するのがけっこう神経を使う細かい作業で、石井の能力ではもう難しい。支給された時点では強すぎたバネを、最初に出口氏、ついで坂巻氏に、柔らかいほうに調節してもらいました。で現在はどうなっているかといいますと、ブレード角の最大変位角は約6〜7度、これは自分がアルミの小片で変位角を縮めましたが、ゴム手捲きの調べでは捲数230回まではピクリとも動かず、そこらへんからソロソロ変位が始まります。そして約290回捲きのときに最大変位となり、そのあと捲き足しても変位量は変わりません。手捲きと伸ばして捲くワインダー捲きでは当然捲数とトルクの関係は違うわけで、これでは飛行時のブレード角変位はつかめませんが、いちおうの目安にはなり得ると考えています。ちなみに、このゴムのワインダーでの最大捲数は約420回です。
 可変ピッチプロペラでもうひとつわからないのは、最大変位角をどの位に設定するのが最善かということです。石井はピッチ分布にこだわる性分なので、極端な右肩上がりを好みませんから、最初はおそるおそるの約4度、過日11月18日の大宮競技のときは約5度、そして現在の12月時点では約6〜7度になっています。変位角をもっと進めていいものかどうか、現在はまだ迷っている段階です。
 面白くなって調子にのって可変ピッチ対応ピッチ分布(のつもり)の新型プロペラを設計してみました。最初は従前タイプ(設計図が4種)の流用でどうかと考え、それでお茶をにごす気でいたのですが、可変ピッチの効果を認めて、だんだん乗り気になったというわけです。
 直径420ミリ、最大ブレード幅26ミリですから、かなり細身のスタイルになっています。従前タイプは直径400ミリ、ブレード幅30ミリが基本スタイルで、ピッチ分布だけいじっていましたから、相当な変わりようです。理屈をいえば、プロペラディスクの大きい程推進効率が大きいという理論に従って、欲を出してみたということですが、もとよりレイノルズ数低下のマイナス面は覚悟の上のことです。製作者にしてみれば、新作が良いと思いたい心情がありますから、過日の競技にはこれを使いました。超細身、薄いブレードのプロペラゆえ、バルサ材では強度不足が心配で、良さそうなヒノキ材を選んで使っています。ピッチ分布については、ブレード角が5度変位した場合のグラフで(プロペラ設計図参照)先端失速がどうか、というところですが、理屈はどうあれ飛ばして良く上昇するのが良いプロペラのわけで、どういうピッチ分布が最善か、まだわかりません。プロペラ効率の問題でもうひとつ忘れてはならない要点はブレード断面形(翼型)で、推進効率はほとんどこれで決まってしまうと思われます。
 さて、残るはいちばんの問題、それは可変ピッチプロペラの採用で、上昇性能がどう変わるかです。同一の機体で可変ピッチの有る無しをプロペラを変えたりして飛ばしてテストした感触では、少なくとも5mぐらいの高度の違いはあるようです。プロペラによって変わりように違いはありますが、まずどんな場合でも可変ピッチプロペラで上昇高度は向上する、と請け合って差支えなさそうな気がします。


※坂巻プロペラのケースでは
 私のプロペラは、アンドロコフのF1B用をピッチ分布はそのままに平面形を縮小コピーしたもので、自慢できるものは何もありません。ブレード寸法は直径450mm、最大幅32mmです。
 彼のプロペラ設計では先端部のピッチを大きく落としていて、これは可変ピッチ対応なのかと推察します。私はVPPのスプリングをかなり弱めにセットしています。石井さんと同じ手捲きテストをしてみると20回ぐらいでもう変位が始まり、170回で最大変位に達します。ピッチの初期設定ですが、75%位置でP/Dは1.05です。
 出口さんの解説書によると変位量は約10度、とすると最大変位のときのピッチレシオは1.6ほどと思われます。先端はたぶん1.4ぐらい。正直言うと、これで良しとするセッティングにはまだ至っていません、またどのくらい性能が向上しているのか残念ながら不明ですが、はっきりしているのは私が固定ピッチに戻るつもりはサラサラないことです。


(5)F1G 残りの問題あれこれ

※石井F1G機のしめくくり
 まず意外な発見。可変ピッチプロペラの採用で、上昇パターンの調整がずいぶんやりやすくなったと感じました。発航初期のパワー変化がなだらかになるわけですから、ナルホドという気がします。可変ダイヤプロペラなら、VISシステムなんぞ不要になるんではないか、一歩踏みこんで、そんな想像までしてしまいます。
 失敗。重量管理をちゃんとやった筈なのに、最終的に4グラムほど重量オーバーしてしまいました。機首にオモリをつんでの重心位置の調整(現在は前縁より70%)や、ドープの塗り増しその他で、こうなりました。高度にして約3。5m、滑空にして約10秒ほどの損失で、これではせっかくの性能向上の苦労も台無しです。
 安定問題。重心位置翼弦70%は、タテ安定上このあたりがギリギリの線で、これより後退すると何かで機首を突込んだ時の回復がおそく、機首オモリで重量オーバーになっても、実用的にはこのほうが無難と判定しました。水平尾翼の3。5グラムも軽量化はこのあたりが限度で、胴体材、とくにテールパイプの重いことがここにきてひびいています。
 最後に所期の目標は達成されたか。こればかりは製作者からは言い出しにくく、他人に判定を委せるのが至当と考えますが、本人の自賛的な判定によれば、重量5%オーバーでも、高度70m、滑空3分30秒は実現できていそうな気がします。本音をいえばもう少し上を目指していたのですが、固い実力はそのあたりとみたほうが無難というものでしょう。


※坂巻機のしめくくり
 DPRの効果を再認識しました。F1Bでは既に経験のある装置でしたが、F1Bでは当初からDPRを使っていたのでその効果を正しく認識していませんでした。DPRは、想像以上に効果のある装置です。また、追い巻き機能を付加することで効果は倍化されます。手投げで3mぐらいあがりますが、それ以外の効果を列挙します。  @機速を高めてプロペラ効率を上げることができる
 A加速に要するエネルギー消費が減る
 B発航姿勢が安定する
 C手捲き1回は50cm相当、つまり10回まけば5m余計に上昇することになる
 D手捲きすることでゴム捲きの出来・不出来の幅が少なくなり、VIS飛行が安定する
 以上総合的に、DPRは高度にして10m以上の効果と断じます。DPRメカに2g程の追加重量を要しましたが、十分に引き合います。プロペラが回り始めるまでの刹那、なんだか危ういこの瞬間、麻薬的といったら過ぎますが危険と隣り合わせのこの装置は、それ故メカの絶対的な信頼性が欠かせません。ここがパーフェクトでないと競技に使えないのはもちろん、その前に機体を致命的に損傷させます。発航前にプロペラを半開状態に保持する機構も意外と大切な要素で、手抜きのない工作とチェックを要します。私はここを疎かにしたため、危うく機体を大破させてしまうところでした。
 かんじんな話、今回機の性能は如何。滞空性能が5分に達したかどうかはともかく、DPRの効果で、小型とはいえ国際級にふさわしい飛びっぷりになり私は十分満足しています。(完)