※「坂巻・石井のF1G(クープ級)新作について」坂巻敏雄・石井英夫・連載第1回(更信2002.02.**)
        連載 第一回

■F1G級の新作2機をまとめて発表します.発表のスタイルは,設計・製作の主要技術課題について,両者のコメントが併記される方式です.なお,データ毎にリード文の部分は石井です.

INDEX                                          機体の図面はコチラです
A)前書き …             石井  坂巻
B)どのレベルの性能を狙うか … 石井  坂巻
C)どの大きさに作るか …      石井  坂巻

※以下次号以降に連載予定 D)主翼設計上の諸問題 / E)@ 縦横比 / F)A 翼断面 … /
                   G)B 翼構造と工作 / H)C 主翼の問題その他のこと
                   I)可変ピッチプロペラは果たして有効か / J)可変ピッチプロペラの実技 /
                   K)残りの問題あれこれ / L)むすびの言葉 …石井・坂巻

      

※石井の前書き
 前作が1996年で、F1Gは5年ぶりの新作になります。F1G記事を書くのはこれが始めてですが、進歩のとまった老骨のやることで、内容にこれが新技術と自慢できるほどのものはありません。強いていうなら、プロペラに可変ピッチ機構を取りいれたこと位ですが、これだって"石井さんのボケ防止のために"というLaunchersの有難い思し召しで(良く言ってくれます)、出口工房製の部材支給により、これにて製作記事を書くようにとの要請によりものです。
 ま、そういう次第ですが、当節F1Bなら可変ピッチ機構が標準スペックの時代に、F1B競技から離れてほゞ10年、ためにおくれて可変ピッチプロペラはこれが始めての経験になります。従前タイプの固定ピッチプロペラの流用でどうだぐらいに当初は気楽に構えていましたが、気合を入れ直して新しく可変ピッチ対応のものを試作してみました。取組みが浅くてまだ不明部分が多いのですが、やってみるとこれがなかなか面白くしばらくはこれにハマリそうです。
 新味というならむしろ今回の発表形式のほうかと考えます。いま売り出し中の新鋭・坂巻選手と組んで、共同研究なら共同発表というスタイルを演出してみました。坂巻くんと小生ではちと世代が違いますが、テロ事件の余波でいま閉鎖されている米軍基地瀬谷ひろばで、クープ級やミニクープ級で刺激したりされたりし合っている飛ばし仲間です。もとより技術的新味は新鋭の側にあり、性能も坂巻機が上と思われますが、そのことはさておき、肌合いの違う両モデルを並べて公開するところに、新鮮味もあろうかと考えました。
 F1G級(旧クープ級)というのは2分maxでやる国際級ジュニア版ですが、一流選手がムキになってやるまでもないビギナー向き種目とされているらしく、わが国でいま流行っている種目とはいえません。たしかに技術的密度ではF1B級には及びもつきませんけれども、全機まるごとの購入も可能で、どの機も同じ顔付きに見えてしまう昨今のF1B級とちがい、好みも技術レベルもバラバラながら、それなりに作者の苦心がほの見えるところに、これはこれでなかなかに味のある種目というのが小生の見解です。クープ級にもさらに小型のミニクープ級にも、やればそれなりにゴム動力をやる楽しみはあります。一流選手諸兄の参加が望まれるところです。

※坂巻の前書き
 ほめ上手の石井さんの誘いにのって、F1Gの製作記事を共同発表することになってしまいました。はじめは製作図面を石井さんに渡してこれを論評してもらえれば、ぐらいのつもりだったのですが、本文中にも私の意見をとりこむ構成が石井さんの発案で、私はサテサテどうしようと思いつつ、私が大風呂敷のホラを吹いてもあとは石井さんがうまくとりまとめてくれるものと覚悟を決めました。
 F1G用に作られた出口製作所のVPモントリオール、モーターチューブ,Dボックス材など先端材料があって、これを使えば高性能なF1Gができそうな予感がして、“私の能力目いっぱいのF1Gを作ろう”と最大限の気合をいれて作り始めたのが今回の機体です。完成に至ったものの所期の性能が得られず、その後2度の大きな改修を施すことになりました。改修の1つ目は主翼の作り替え、2つ目はDPRの追加装備です。どうなることやら、経過は実技編に譲ります。



■ここからは実技編
1.どのレベルの性能を狙うか
 設計の手始めは何の種目でもそうですが,狙いとする性能目標の設定から始まります.機体の諸元・スペックなど,性能目標によって違うからです.ところでここで問題,いったいF1B級というのは最善をつくせば,どのあたりが性能上限なのか,性能ポテンシャルを数値で知りたい,ということがあります.その上で性能ランクをたとえば「松」「竹」「梅」などの位に分けて,どのランクにあわせるかで設計が始まります.


※石井機の狙いは高度70m、滞空3分30秒
 一流モデラーによる実作例にとぼしい現状では、F1G級の性能上限の見当をつけるのが困難です。異論もあるかと思いますが小生の見当では、上昇高度で80m、滞空で4分超えまで可能とみています。これが「松の特上」ランクですが、とびきり上質のゴムを使い、ロングスパン翼、可変ピッチ&ディレイドPropはもちろん、最新ハイテク技術をF1Bなみにフル投入した特定の場合の話です。
 小生の新作機では、身丈を超えたそんなウルトラ級の性能は狙いません。実技的にムリのないほどほどのランク、「松の中」か「松の下」あたりに性能狙いはとどめ、かわりに実用上のトータル・バランスを重視します。トータル・バランスというのは、(イ)作り易さ、(ロ)飛ばし易さ、(ハ)長期使用に耐えるこわれにくさなどですが、(ニ)飛行時の安定の良さももちろん大事です。
 性能目標値としては、そうですね、並よりやや上質のゴム使用で上昇高度70m(可変ピッチプロペラでもう少し)、滞空で3分30秒ぐらいなら上出来とします。このレベルの性能でもうっかりヘマをやると、目標性能に届かないオソレがありますけれども、新作というからにはせめてその位は、というのが本音です。高度はプロペラで、滞空沈下のほうは翼断面の工夫その他でというヨミですが、そこらへんをどうやるかが設計者の楽しみでもあります。


※坂巻機の目標性能、一応滞空性能5分としておきます
 性能を一番よく把握しているF1Bとの比較で、F1Gの滞空性能を予測してみます。ご存知のように2002年からF1Bのゴム搭載量は35gから30gに変更されましたが、この結果F1BとF1Gは機体重量とゴム重量の比率がほぼ同じになり、翼面積に規格上の違いはあるものの、F1Bの機体重量とゴム重量を1/3に縮小したのがF1Gといったあんばいになります。世界の一流はゴム35gのF1Bで滞空性能7分ぐらいでしたから、単純な比例計算をすれば、ゴム30gのF1Bなら滞空性能は6分ぐらいとなります。とすると、絶対寸法が小さくなっていることの不利を勘案してF1Gの滞空性能は5分、高度にして85mぐらいかな、と推察します。ただF1Gは翼面積に制約がない規格上の利があるので、空力的洗練を積み重ねればF1Bに並ぶ滞空性能だって不可能とは思えません。でもここは控えめに、最高水準のF1Gは滞空性能5分としておきます。まあ、このくらいの性能に近づけば成功と思います。
 前作機からの反省で今回機の製作にあたっては、滞空性能と並んで機体強度も重視しました。前作機は、大きめの翼で滑空性能は申し分ないものの主翼強度が不足していて、競技中に出会う強めの風に耐えられなかったのです。今回機は、オールラウンドに競技できる万能タイプを想定しています。


2.どの大きさに作るか
 F1G機の設計で,案外に悩ましいのが機体をどの大きさに作るかの選択です.機体の大きさを代表するのが翼面積ですが,規定でしばられているF1B級とちがい,本体重量70グラム,搭載ゴム重量10グラムと,重量規定だけがあって翼面積自由というところが,欲ばりな設計者を悩ませます.


※ 石井機の翼面積は9.5du
 石井の見解は機体重量が同じなら、上昇性能・滑空性能ともに大翼面積機がトクだというものです。けれども本体重量70グラムでは主翼に割り当て可能な重量には限度があり、石井の実作経験からすると20〜25グラムぐらいが、この重量では材料、構造、強度の関係から性能の要求する大きさの主翼を作ることが難しい。
 新作石井機の場合、主翼への割り当て重量は22グラムで、主翼面積は10duを切ってやや小ぶりの9。5duです。特大翼面積の側では、以前に何かで見たフランス選手のクープ級図面に、破格の16duという巨大翼がありましたが、こんなのは特異例として、せめては10duを超えたいという願いさえも、小生の工作技術ではこわくて腰が引けてしまいます。
 主翼面積が小さめに抑えられたについては、いささかドジ・意古地といわれても仕方のない事情があります。まず胴体材が無用に重すぎます。出口工房製のセットになった胴体材、モーターチューブとテールパイプについては、軽量化された新バージョンが出ていることを承知しながら、敢えて支給された旧タイプのものをそのまま使いました。丈夫なことは無類ですけれども、たぶん5グラム以上は重いと思われます。もうひとつ重量を喰っているのがオモチャのゼンマイ利用のVISメカで、関係部品を合計すると6グラム位あります。メカに重量を喰われたぶん機体が小型化しても性能的に引き合うかどうか、ここのところも問題ありで、それやこれやの事情から主翼面積は9。5du、不本意ながらこれでやるしかないと、ま、そういった次第です。


※坂巻機の主翼面積は11.5du
 思想的には、単純至極に機体重量と強度の許す限りできるだけ大きくです、これは石井さんとたぶん同じ。思想は単純でも具体的にどのくらいの大きさに設定するかは苦労するところ、今回は翼をカーボン−ケブラー系のDボックスとしましたが、私はF1Gをこの構造で作るのが初めてなので、仕上がり重量、強度そこらへんの見当がつきませんでした。今回機が程よいところに収まっているのは、性能の不満から翼を全面的に作り直しているからで、そのあたりのフィードバックもあり、作り直した翼はおおよそ目標に近づけることができました。翼面積11.5du、翼重量は25g,十分な強度を確保したつもりです。
 石井さんの反省にもありましたが、私の機体が石井機よりもひとまわり大きめにできたのは、同じ出口さんのモーターチューブでも軽量な新バージョンを使ったのと、メカ用タイマーにゼンマイ式でなく軽量な部品を使ったことによります。私がタイマーとして使ったのはロータリー・ダンパーというのかどうか、軸がゆっくりと回るシカケを持った小さな部品で、1gそこそこの重量です。タイミングの調整、発航準備までの操作性はゼンマイ式のタイマーに劣りますが、何よりも軽量であることの利があります。メカ自体の動作は確実で信頼できますから、競技に十分使えます。(以下次号・図面は次号に掲載します)

       

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