Dr,あほうどりの
“きまぐれ的FF模型文化論”
連載第二弾
第三回
(vol.2 no.

 石井英夫
第5章 「最良縦横比」をめぐって

 どんな翼断面形にも最良縦横比(最適縦横比とも)というものがあります。最適縦横比には空力の面と構造強度の面と2つありますが、ここではもちろん空力の面です。ふつう翼を細長く伸ばすほど誘導抗力(翼縦横比に逆比例)が減って、揚抗比(つまり滑空比)が良化する理屈ですが、翼面積が決まっている場合にはそうはなりません。
 翼を伸ばすほど翼弦長が小さくなってレイノルズ数が低下しますから、形状抗力のほうは逆にどんどん増えて、どこかで翼を伸ばす効果がストップします。レイノルズ数変化に鈍感な実機と違って、模型ヒコーキの世界ではここがシビアなのです。いちばん良く知られている、F1Bゴム動力機の例で考えます。

 標準的なスパン160cmのF1B機を翼面積16duとして計算すると、平均翼弦長は10cm、縦横比は16となります。滑空スピードの推定がむずかしいのですが、かりに揚力係数(Cl)を大き目のCl=0,8と見積ると滑空スピードはV=5,34/秒となり、平均翼弦長でのレイノルズ数は、Rn=37,380です。 Rn=35,000を超えていれば、まずまずは安心ですが、これが翼端部6cmになると、Rn=22,400となって、これは相当に苦しい。
 更に伸ばしてスパン2mの場合を考えます。この場合は平均翼コード8cm、縦横比25、Rn平均値は29,900となって、すでに平均翼弦での翼特性が怪しくなります。更に翼端部5cmの場合はRn=18,700で、さすがにここまでRn値が落ちては、どんな翼断面形をもってしてもダメでしょうから、スパン2m,縦横比25のF1B機が最適縦横比を超えてしまっていることは明らかです。
 私見ではF1B機の最適縦横比はせいぜい20、スパンでいうと180cmあたりとみます。これはもちろん最良の翼断面を採用した場合で、そこまで翼断面形に自信が持てない場合は、もう少し控え目にしておいたほうが無難かも、そうして肝芯なF1B機の滑空比の上限は、小生の推定では15〜17、奇跡的な翼断面が開発されれば話は別ですが、F1B機で滑空比18以上なんて、まずあり得ない話と考えます。

 話があほうどりから外れてF1B機の話になってしまいましたが、ここで何が言いたいかというと、Rn30,000クラスのF1B機でさえ、滑空比15ぐらいは実現できているということです。F1B機とあほうどりを対比して、レイノルズ数値でははるかに大きくて有利な筈のあほうどりが、F1B機と同等クラスの滑空比性能なんてことがあるでしょうか。 ひとつ気になることがあるので、弁明しておきます。F1B機はせいぜいスパン180cmまで、2mになんか伸ばしたって幸福にはなれませんよと小生が断定するのは、いささか独断にすぎないか、その種の懸念への弁明です。

 模型ヒコーキの世界では、レイノルズ数が王様で、誰もが逆らえません。構造強度の問題が解決しても、空力問題の解決とは関係がありません。独断といえば独断ですが、小生がこの結論に至るには、自慢するわけじゃありませんが、元手がかかっています。元手というのは、Rn20,000周辺の模型の数多くの実作です。小生はF1Cエンジン機種目はやらなかったので、Rn50,000以上の経験はありませんが、F1Aグライダー種目以下、いろんなレイノルズ数域の模型の実験を重ねてきました。
 F1AグライダーRn45,000、F1HグライダーRn36,000、F1Bゴム動力機Rn35,000、R級ゴム動力機Rn26,000、HLGハンドランチRn23,000〜27,000、F1Gク―プ級Rn23,000、ミニク―プ級Rn20,000、パチンコバルサPLGRn12,000〜17,000、パチンコバルサ輪ゴムランチRn5,000〜7,000、以下はすべて競技用種目ばかりです。
 以上の経験から種目別の翼型談義をやれれば、それもまた面白そうですが、それはまた別の機会にゆずるとして、いろいろ験して意味のありそうな結果の得られるのは、せいぜいRn15,000ぐらいまで、超低レイノルズ数域対策としては、ウス翼にすることと前縁を尖らすことぐらいしか思いつけませんが、Rn10,000ぐらいまで下がってくると、何をやろうとすべて無効という感じです。空気流れの粘性が強くなりすぎて、もうどうにもならない。F1B機でスパン2m(アスペクト比25)なんて、そんなぜいたくが許される身分じゃありませんよと主張したい根拠がここにあります。
第6章 あほうどりの滑空比は推定25

 予備知識はその位にして、あほうどりの滑空比の話に戻ります。実証的なデータを欠くので、推定のうえに推定を重ねる思考実験になりますから、ひとつ間違ったらどこまでも間違うキケンがあります。
 最初に基準となるモデルを設定します。翼縦横比,レイノルズ数、翼断面形などはどうなっているのか。それらを次つぎに見積り、あるいは割り出し、最後に綜合判断によりあほうどりの滑空比を推定します。
 比較的に小型の「コアホウドリ」から翼長3,5mに達する「ワタリアホウドリ」まで、あほうどりにも大きさ、種類いろいろあるようですが、ここでは滑空比に有利な翼長3mクラスの大型の鳥を基準モデルとします。

 まず縦横比の見積もりですが、三面図が用意されているわけじゃないので、これが結構むずかしい。あほうどりのレイノルズ数なら、最良縦横比は20よりはるか上の筈ですが、小生の見当ではどうもそこまでのことはなくて、縦横比15ぐらいじゃないかとみているのですが、さてどうですか。縦横比15と20以上では性能的には大差ですから、あほうどり君、もし間違っていたらゴメンナサイ。
 翼長3mで縦横比15ときまれば、翼弦長の平均値は20cmで翼面積は60duと計算で出ます。かなり大型の鳥で、これで基準モデルの大体のかたちが見えてきました。
 つぎにレイノルズ数はどの位か。計算には滑空スピードが必要ですが、そのためには翼面荷重と揚力係数の値が分っていなくてはなりません。あほうどりの重量は計算を簡単にするために6kgと置きます。翼面荷重は100g/du。FF機のほヾ10倍に近い高翼面荷重となりますが、当っているかナ。

 問題はあほうどり翼の揚力係数、この推定がまた難物です。私見ではここにFF屋の翼型常識を持ち込むなんて恐らく最悪で、FFモケイとはかけ離れて異質な世界ゆえ、まったく別種の発想が要求されると考えます。TV映像などにより観察する限り、あほうどり翼型は、人間共の作るどんな翼断面形にも類をみない、高揚力タイプ系列の翼型と小生は見ます。下面カンバーの湾曲度や、翼前縁肩に当る部位の盛り上がりぐあいからそう判定します。そこで小生の推定によるあほうどり翼の揚力係数(Cl)は,破格の値のCl=1,3〜1,6。あほうどりは生き物ゆえ、状況に応じ翼断面を変えて、もっと大きな揚力係数で飛ぶ時だってあるかも知れない。ふつうのFFモケイなら常識的な揚力係数Clは0,6〜0,8、思いきり低速滑空を狙った高揚力翼型のF1Aグライダーの場合でも、たぶんCl=1,0は超えまいと思われますから、揚力係数1,3〜1,6は非常識きわまる数値に見えます。しかしあほうどりに関しては、これがあり得る数値と小生は信じます。
 厖大な数の羽根部品で構成された翼構造は、空気流れを調節する機能にも恵まれていて、大揚力でも剥離しない翼メカニズムになっているんではないか、そんな風に小生は想像するわけです。
 これでレイノルズ数の計算が出来ます。揚力係数1,3に場合は滑空速度11m/秒、このときのレイノルズ数Rn=54,000。揚力係数1,6では滑空速度10m/秒で,Rn=140,000。この計算結果をどうみるか。
 FFモケイのほヾ10倍に達する高翼面荷重にしては、案外に低速滑空もこなし得るあほうどりの飛びぶりにも符合し、揚力係数の破格の推定値もあながち不当なものではないような気もします。

 推定のうえに推定を重ねて、それでも一応の材料が出揃ったところで、いよいよあほうどりの滑空比性能の判定にかかります。ここで判断に迷う要素が2つ。ひとつはRn=150,000をどう評価するか。もうひとつは、縦横比を大きく見積もれば揚抗比を伸ばせる筈のところを、縦横比15におさえたためにどの程度割り引くか。
 いろんな要素をあれこれ勘案したうえで、翼長3メートル級の大型の鳥なら、小生は滑空比25と判定します。 じつは縦横比15クラスで滑空比25は相当に苦しい数値です。ひとつには小生の思い入れがあって、あほうどりは神の手に成る傑作ゆえ、人智を超えたマカ不思議があり得そうだということ、もうひとつには、Rn35,000クラスのF1B機が滑空比15〜17、Rn=45,000クラスのF1A機が滑空比20を実現しているという、FFモケイ界の現状認識も加わります。あほうどりが、F1A級グライダーの滑空比性能を超えているとみて、当然ではないかというわけです。                                                    (以下次号)
このウィンドーを
     閉じる→