Dr,あほうどりの
“きまぐれ的FF模型文化論”
連載第二弾
第一回
(vol.2 no.1)

 石井英夫
話題が変わります…(お待ちかね!「あほうどりの由来」篇“part1”)
 昭和初年生まれの退役老人が、つい気張って固い話を引っ張りすぎました。文化論に成り得ているかどうか、それはまあ別として、せめて面白く読まれているならいいのですが。古い人間がいまさら何の彼の言っても始まりませんが、FF界の現況をえぐる本質論議のつもりでも、これを生臭さを消したかたちでやろうとすると、難しくなってやはり疲れます。というわけで、今回はお話変わってマジメなようなフマジメのような話。あっちこっちに話が跳ぶのがア・ラ・カルト風というわけで、今回のはどうみても阿呆な男のユメの話、“あほうどりは恋人”というのです。
あほうどりは恋人
 3〜4年前だったかと記憶します。風おだやかなある夏の日の早朝、小生行きつけの瀬谷ひろばでミニク―プ機を飛ばしていると、デサマが利いて、折から朝のウォーキングで通りがかりの男女二人連れの近くにバサリと落ちました。先の男性のほうは眼もくれずにスタスタ行ってしまわれましたが、フト足を止められた奥方とおぼしき中年婦人、
 「アラ,よく飛ぶわネ」
とこれは良かったのですが、あとが気に入らない。
 「ア,何か書いてあるぅ.《まちだ−あほうどり》だって。ヘンなの。あほうどりってアルバトロスのことじゃないの。アルバトロス、アルバトロス、アルバトロスのほうがステキよネ.」
 そう歌うようにようにのたまいつつ、足早にご夫君を追って去って行かれました。ガクのあるご婦人だなァと感心もしましたが、しかし小生クサリましたね。
 「アルバトロスじゃないやい。あほうどりだい。」
これはもちろん声にだしたわけじゃありませんから、あちらさんには届きません。《まちだーあほうどり》稼業を長年やっていると、いろんなことがあります。
 《あほうどり》−―いっぱいに羽根を拡げると大型のものでは翼長3メートル以上、ミズナギドリ目、アホウドリ科の海鳥。英語で「Albatross」「Cape Sheep」などとものの本にあります。日本語ではふつうはカタカナで「アホウドリ」、漢字なら「信天翁」、洒落て「沖の太夫」、「沖の小僧」などとも。小生のはそんな気の利いたのではなくて、阿呆にひっかけたひらがなの《あほうどり》。 ネコ好きのうちのカミサンなんぞは、生まれかわったらネコになりたいなど申しておりますが、小生現世のままあほうどり気分でいたいために、作る模型ヒコーキのすべてに《まちだ−あほうどり》の名札を付けて飛ばしている程この鳥が好き。
 推測ですが、人間誰しも胸の奥底に秘めた終生の願いごとのひとつやふたつ、あるんじゃないかと思います。そんなこと、ひとには明かせない、というより明かしても理解されないばかりか一笑に付されてしまいそうな、それゆえに終生のひみつ……。たとえば、ラスコーリニコフとソーニャの物語ゆかりのネヴァ河の水の流れを見てみたいとか、スウェン・ヘディンが舟で渡ったという、ロプノール(さまよえる湖)のあと地に立ってみたいとか、ま、その手のたぐいのことですね。で、小生にとって終生の願いというのは、南海の無人島鳥島に住みついて、そこでくる日もくる日もあほうどりの飛翔を眺めて暮らせたらどんなに仕合わせか、というものです。利口な人間の考えることじゃありません。しかし世の中には上があるもので、ボランティァ精神でこの鳥を絶滅から救った、東邦大学の長谷川博先生という天下公認のあほうどり狂いが居られますから、小生は良くいっても日本で2番目のあほうどり好きでしょう。
 鳥島は本州の南方約600キロメートル、わが住む町田市と同じ東京都の管轄とはいえ、市井の一民間人がこの島に渡って住みつくどんな手段があるのか、これがとてつもなく遠い話なのです。
 小生の人生、残り時間がもうわずか。あほうどりを現場で見ることはあきらめまして、せめてこの鳥が飛ぶテレビ映像だけはかかさず見るようにしています。阿呆鳥の名の通り、この鳥の地上に居るときの動きのドジ・マヌケなことお話のほかですが、斜面を転げ落ちるようにして空中に飛び上がってしまえば、そうなってしまえば天下無敵です。長大な翼をゆるやかに弧を描いて下反角状にしならせ、まったく羽ばたくことをせずに海面上を高く低く飛び回るさまは、まさに滑空王者の風格、見ている小生もうしびれっぱなしで、見続けて見あきないものがあります。
 そしてもうひとつ玄妙なのが長大な翼の折り畳みかた。どうやるのか、いとも無造作に畳んですました顔をしているのですが、飛行姿からは想像もできないコンパクトな地上姿は、奇術を見ているようで、どんなに眼をこらして見ても、どういうメカニズムになっているのかわかりません。
                                                       
(以下次号)

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