第七回 ■■■■■■■■■■


◆ゴム束問題、その考え方
 ここからF1B 35グラムのゴムをどう扱うかの実技になりますが、最初にぶつかるのが、3ミリ幅のゴムを何条にするかのゴム束問題です。これはF1B動力問題の中心課題となるところで、機体やプロペラのキャラクターや各人の上昇パターンの好みまでからみあって果てしないことになりますから、ここではそういうことは一切無視して、エネルギー蓄積効率のことだけを考えます。
 要するにゴム束は太短く使うのと細長く使うのでは、エネルギーの入れ物としてどちらが効率的かということです。結論をいってしまえば、ネジって使うエネルギー蓄積方式では、ゴム束は細長く使うほど効率が大です。理由はゴム束を同心円的にみたとき、内部のほうほど伸びきらずにアソんでしまうためで、このことは極端に太い横綱のまわしほどのゴム束を想像してみればあきらかです。しかし理屈はそうでも、現実はどうなるか。現役F1Bプレーヤーに取材してみると、TANUゴム35グラム時代になってもTANゴム40グラム時代と変わらず、3ミリゴム(メーカー表示は1/8インチ幅)28条使用が大勢となっているようです。ゴム量ルール改正は小生の退役後のことだったので、ゴム量の減少はゴム条数の減少となって表れるとみていたのですが、現実は今までのところそうなっていないようです。ひとつの理由は、ゴム伸び率の進歩で、ゴム束長さの減少が巻き数減少につながらなかったということと思われますが、大きな理由は、慣れ親しんだプロペラシステムを変えたくない心情も働いているような気もします。
 みずからやらないで言うのもナンですが、私見としてはもう少し細めのゴム束、26条、24条あたりを験してみたい気もしているのですが。ゴム条数問題理屈からではなく現実問題として見るとき、見落としてならないのはゴム巻きのテクニックのこともさることながら、10倍以上にも達する最新ゴムの伸び率です。どういうことかというと、巻きはじめに10倍はムリとしても8倍伸ばしてからゴムを巻き始めると、その時のゴムの断面積は自由長の1/8、実質的に3.5倍の細さにしてから巻き始めている、これが大きいと思います。そう考えてみると、TANUのように良く伸びるゴムでは、26条とか24条とか、細くしたゴム束を使うことに、効率を期待するのはムリかナ、験してみなければいけないとそんな気がしています。1960年代のザイク年鑑をみると、この時代はゴム50グラムルールですが、現在と違うのは6ミリ幅のゴムを使うのが主流で、面白いのは、12条、14条、16条がほとんど同率の使用例にみえることです。3ミリ幅に換算すると24条、26条、32条、ということになります。なぜこんなに古いことを持ち出したかというと、ゴム蓄積効率をとるかフロペラ効率をとるかのゴム束問題は、ゴム動力機プレーヤーには、古くてかつ新しい中心課題であることを示したいからです。
 ここで古い時代の私事に触れさせていただくと、1974年、1975年と連続優勝した当時の“まちだあほうどり”機は、ピレリゴム16条で、大径640ミリ(ピッチ850ミリでこれがへらぶなプロペラ)を回していました。巻き数わずかに300回あまりでモーターラン40秒、よくこれでやれたと今にして思うばりですが、小生にはゴム効率を捨ててもプロペラ効率をとるほうが勝ち、と考える時代があったとうことです。
 宗旨替え、というわけではありませんが、いまなら逆で、小声でいわせていただくなら、ゴム蓄積効率を生かしたほうが面白いかナ、という気分になっています。ゴムはエネルギーの入れ物、なんたってたくさん詰め込めるほうがトクで、フロペラ効率のほうは、あとでなんとでもテを考える・・・・・というわけにはいかないか。

◆F1Bプロペラの実技
−アントリューコブシステムばかりで面白いか−
 プロペラの実技に入る前に、心得ておきたいことがあります。プロペラは機体を構成する1部品に過ぎないということです。まず競技機全般を見通す戦略思想があって、それに適合させるべくプロペラがあるので、その逆ではない。ですから、どうな精巧なシステムであろうとも、プロペラは独立国ではない。機体の戦略思想しだいで、プロペラはどのようにでも変わる、とそんな考えで小生はいます。ところが、小生のこんな思想がみじんに粉砕される経験に出くわしました。
 実は小生、この文章を進めるにあたって、アップトウデイトの生きた情報にとぼしく、ためにこれはと見込んだ現役トップモデラーから情報を集めて、F1Bプロペラの実技編を締めくくることを目論んでいました。プロペラ直径とピツチ分布、最大ブレード幅とブレードの厚み、ブレードプロフィル、ゴム条数と巻き数、モーターラン、使用メカの種類など一覧表を作って選手ごとの考え方の違いを示せば面白いだろうと考えたのです。しかし、この狙いはアテが外れました。いま6月、シーズンオフなので電話取材を始めたところ、これがどうも小生の認識不足で、意外な答えばかりだったのです。みなさんすでにアンドリコブシステム使用中か、いま乗り換え中と言う答えばかりで、自分流儀でプロペラを進めている人に出くわしませんでした。
 なるほどなるほど、いまはそういう時代なんだと思いました。こんな時にプロペラを原理から考えてみよう、なんぞという間抜けな文章を書き始めてしまった自分を嘆いてみても、それはこちらの勝手、始めてしまったことなので、もう少し続けます。
 競技なら勝つことが第一、勝つための選択こそ良けれで、べつに異をとなえるつもりはありませんが、そこまで律儀にみながみな歩調を揃えないでも、とは思いました。アンドリコブシステムがいかに優れたものでも、技術ノウハウが先方サイドだけにあって、主導権を握ぎられっぱなしというのは面白くない、と小生なら思います。
 そうするとあれですか、ウクライナ側からまた新しい技術的発信があれば、またゾロゾロと追従するわけですか。時流に逆らうのがいい、ガンコがいいといっているわけではありませんが、趣味なんだから人それぞれに違うのがいいんじやないかと思うのです。わが国のFF界には、野心的な人材、個性流のサムライがいてくれたほうが面白いんではないか。昔はいました。思い出しても、サムライ銘々伝というのをいくつ書けそうなくらいです。海外でも有名なところでは、アメリカF1B界の超大物ボブホワイト氏、このひとはあっぱれなサムライでした。徹底したメカぎらいで、VISシステムはおろか、モントリオール・ストッパーさえも拒否して最先端メカ陣営と張り合って、ノンメカ流にも勝算があることを身をもって示しました。

◆上昇はプロペラと主翼の協同作業
 さて、そういう次第で、現役選手からデータを借りることはやめにして、小生流儀の考え方ではなしを進めようと思います。実技上のいくつかのテーマを選んで、小生ならどう考えるかを書いてみます。F1B機はいわば総合芸術ですから、プロペラとゴムのとの関係だけから上昇問題を考えると言うには足りません。上昇には機体の全機能が参加しているので、とくに主翼の働きが重要な意味を持っています。プロペラに良い働きをしてもらうために、機体側がどんな条件を準備していなければならないかを記します。
(1)とにかく 全機の揚抗比が良いこと。揚抗比はL(揚力)/D(抵抗)で、話を簡単にしたいために、ついそういってしまいますが、ほんとうに重要なのはL3/D2の方です。この値の平方根が滑空沈下率を表しますが、上昇にも関係するので、ときに“上昇数”と呼ばれることもあります。要するにグライダーとしての性能の良さが良い上昇のための必要条件で、上昇はプロペラだけの単独作業ではなくて主翼との共同作業、近年のF1B機の上昇の良さは、大きく主翼の性能向上に負うています。
(2)上昇時に機体の姿勢が安定していること。最近のF1B機は限界的な上向き上昇を狙っているので、安定上、非常にきわどいバランスを強いられています。しかし、そこを見事に凌いでいるのが動安定の良さで、短い機首、長いモーメントアーム、それに超軽量の小ぶりの水平尾翼とまさに八頭身美人。細くて長大な主翼も縦安定にプラスに働いて(風圧中心の移動が少ない)、F1B機も磨きぬかれてここまでリファインされると、ほとんど究極のスタイルのように思えます。
 むかしこれが出来なかったのは、解ってなかったか、解っていても出来なかったか、どうなんでしょうか。

◆モーターランの長短について
 モーターランはプロペラの回転時間、すなわちゴムエネルギーの放出時間のことですが、上昇高度が第1儀となっている現行F1B機では、モーターランの長短そのものをトクかソンか議論するほどの意義はありません。モーターラン何秒であれ、高く上がるほうが良いわけです。
 F1Bの歴史を省みると、しかし以前はそうではなく、急上昇派と緩上昇に分かれて、どちらが優れるかをもって技術的戦略とする風潮があり、これはかなり後まで尾を引いて続きました。
 この考え方によると、モーターランについては長短離れたところに2ケ所の最良点が存在することになり、この種のことは単峰特性しかあり得ないと考える小生には、ナンセンスな争いとしか映りませんでしたが、いまはもう急上昇派も緩上昇派も存在しないと思います。しかし、最高々度の獲得には、どのモーターランが効率的かと言う問題はいぜんとして残っているので、この問題の整理を続けたいと思います。
 結論を先に書いてしまえば、長すぎるモーターランも短すぎるモーターランも共に不可です。この種の問題は単峰特性しか考えられませんから、長短いずれも極端な場合を想定してみるのが、問題を考えやすくします。まず、長いほうでは、一番長いモーターランは人力機のようなゆったり飛ばす水平飛行に近い場合で、これは伸ばしに伸ばして2分以上凌いだとしてもダメなことは明きからです。まともにモーターランの長さが勝負となるのは、天井に高さ制限のある室内機競技だけで、これも天井の高さ無制限となれば、F1B機のように極限まで高度を稼いで、あとはプロペラを畳んで、滑空で勝負、となるのではないでしょうか。
 つぎに短いモーターラン、見た目にも派手な高速急上昇の場合ですが、これが何故ダメかというと、不必要な高速度上昇は、ニュートンの法則で、高位置に機体を引き上げるエネルギー変換作業以外に、速度の2乗で働く空気抵抗にムダなエネルギーを消費してしまうのがダメなのです。
 高速度上昇がいかに非効率かの例をあげますと、小生らが瀬谷ひろばでやっているバルサPLG、これは打ち出し速度はたぶんフリーフライト最高速ですが、どんなに人力パワーを増して垂直上昇させても高度50mを超えることは困難です。これは発航速度約130km/hに働く空気抵抗のブレーキが、パチンコゴムの推力エネルギー(発航時推力1.5〜2グラム)のオイシイところを食いつぶしてしまうのです。ということから考えて、上昇時の飛行速度は可能なかぎり低速であることが、エネルギーロスが少なくて望ましい、という結論にになります。それならどのようにしたら上向き上昇飛行を低速に出来るのか。その意味からは、プロペ推力だけがひとりガンバる垂直上昇というのは問題ありで、主翼揚力にも半分の機体重力を負担してもらう45°上昇がいちばん合理的、ということになります。理屈はそうですが、現実問題としてこれもどうか。速度が落ちたらプロペラも主翼もレイノルズ数が落ちてそちらの空力性能が劣化するというの現実を無視した議論だからです。アタマの痛いところですが、適当な妥協点を見つけるほかありません。 
 以上を総括すると、最適モーターランの割り出しには、(1)ゴム事情(2)プロペラ事情(3)機体事情 (4)上昇パターンへの要求など、関係ある諸要素から総合判断で決められるべき、とはいうものの、現実には飛ばしてみて、いちばん高度がとれるのが最適モーターラン、という身もフタもない結論に落ちつくしかないように思われます。
 したがって、モーターラン2〜3秒の違いなど、問題にするに当たらないと考えます。しかし、効率的な上昇のために、エネルギーの適正な放出時間というワクはいぜんとしてありそうで、現在のゴム事情でいえば、ゴム条数28条、巻き数440〜480あたりなら、最大幅をとっても38〜48秒の範囲かと考えます。なお私見を加えるなら、機体性能・プロペ性能が向上するにつれ、最適モーターランはいくぶん長目のほうへ移動すると考えられる理由があります。(以下次号→こちらから Dr.石井の“FFライブラリー”に Link しています)


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