第六回 ■■■■■■■■■■

ゴム測定の手順について
 ゴム特性の測定については、あまりやっている人をみかけないので、小生の測定手順を書いてみます。この方法がスタンダードになり得るかどうかは別にして、相対比較を重んじて、測定方法を変えないことが大切ではないかと考えています。測定は10センチループのゴム輪で行うので、供試用ゴムを30センチほどに切りとり、潤滑油(シリコン油)を塗ってブレークインをします。ブレークインは4〜5倍ほど伸ばしながら始めて、5〜6回で限界まで伸ばし切ります。ここでノギスで幅と厚みを測りますが、経験では、幅のほうはまったく安定していますが、厚みの方はまちまちで、油断ができません。平均が1.1ミリぐらいで、最大で20%ぐらいは違うので、強いゴムだと喜んでいると、だまされることがあります。
 テーブルに1メートルの尺を置いて、ここから本腰を入れたブレークインに入ります。極限状態まで伸ばし切って安定させないうちは、測定にかかれません。何度も何度も限界伸ばしをやっているうちに、10センチループも伸びますが、その都度新しい結びコブを加えて、10センチきっちりに修正します。この作業の途中で切れてしまうゴムもありますが、そのときはまたやり直します。測定は伸び率の大きいほうから始めますが、計測には5キログラムの規格のバネ秤を使います。初期には伸び率の低いほうから始めていたのですが、誤差の出やすいことに気付いて改めました。計測は2回繰返し行って誤差がないか確かめます。
 両手をいっぱいに伸ばしての限界伸ばし測定では、いつ切れるかの恐怖と闘いながら、楽しい作業ではありませんが、それより困るのは最大伸び率あたりでは、計測中に張力が落ちてくることです。これはゴム特性が、最大伸ばし時には完全な弾性体でない(ヒシテリシス特性といいます)ためですが、完全に安定するまで待ち切れないので、約10秒ぐらい待って、張力表示がやや落ちついたなと判定されるあたりで読みとって、グラフ上に点を打ちます。したがって最大伸び率付近のデータの信頼性はそう高いものではありません。グラフ表示上の最大張力のわずかな数値の違いを等々するのは、あまり意味がないことになります。長いことゴム測定経験を重ねてきてわかるのは、嬉しいことに最近のゴムのヒステリシス特性がずいぶん良くなったことです。
 最大に伸ばしたときの張力が、待っている間にそれほど落ちずに持続します。これは動力用ゴムとしては願ってもないことで、最近のF1B機の飛びぶりの良さも、このへんに理由のひとつがあるように思えてなりません。さて、このような室内でするゴム特性の測定が、現場でどれだけ役に立つかです。良いゴムかどうかは飛ばしてみるのがいちばん、というのがたぶん大方のF1Bプレーヤーの意見で、それに異論はありませんが、小生の経験では、室内測定のデータを信じて、十分に競技を戦えます。そのように言われても、自分でする実測まではどうも、というかたのために簡便なゴム判別法をお教えします。それはハカリなど用いなくていいから、ただゴムを伸ばしてみることです。そして良く伸びるのが間違いなく良いゴムです。ゴム特性図を画いてみればわかりますが、ゴムの伸び率が増して、下方に出てくる面積が減少するなんてことはめったにありません。

◆ゴム特性はまだ進歩するのか
 伸びがないうえにトルクも弱い、貧弱なゴム特性の黒色FAIゴムに悩まされていた80年代末期に、突然乳白色のTANゴムが現われたとき、8倍も伸びるとはこれは究極の夢のゴムではないかと思いました。そうして10年が経って、いままた10倍以上にも伸びるTANUゴムの出現。そうなってみると、いまのTANUゴムでもこれが究極ではなく、まだこの先があるのかナと思えてしまうのも自然でしょう。たとえばの話です。思ってもせんないことながら、たとえばブリッジストンのような技術力のある大メーカーがこれに取組んだとしたら、どうゆうことになるか。模型用ゴムなぞ、極端に小さいマーケットですから、これに世界企業が手を染める事などあり得ませんから、これは単に想像上のアソビです。かのピレリゴムといえども、ブランド名は世界的でも実態は系列弱小メーカーの仕事であったろうと推察します。
 小生は若いころからモータースポーツ好きで、重要度をエンジンと競うほどのタイヤ技術のバトルを見続けてきましたが、昨年、グッドイヤーに替わって、F1レースタイヤを取りしきるようになった、ブリッジストンの技術陣にある種畏敬の念をもっています。タイヤ技術はブラックアートといってのける技術陣容と豊かな開発資金、この一部でも動力用ゴムに回ったらどういうことになるか。それとも現在のTANUゴムは、エネルギー蓄積用としては、他の追随を許さないレベルに到達しているのか。餅は餅屋ということがあるので、大メーカーといえども生半可な取り組みではだめなことは明らかです。
 かっての住友ダンロップゴムは、本腰の入った仕事ではありませんでした。当時はオイルショックという時代背景があったので、少エネ技術の先取りにちょいと験してみるか、というほどの気まぐれ社員の取り組みであったように、この一件の仕掛け人、当時のYSF会長前田氏から聞いたことがあります。ゴム特性関連のことはひとまずこれで終わりますが、新聞にも小さな話題として取り上げられた、珍しいゴム関連文献を紹介したいと思います。久保克吾「ゴム弾性」(裳華社)戦争末期に天才的な少壮学者によって書かれた本で、このまま埋もれさせるのは惜しいと関係者の尽力で1996年に復刻上されました。学術書ですから、もちろん小生には全部はわかりませんが、ゴム弾性の基礎原理、加硫による効果など、ゴム弾性の基本がわかる古典的名著だろうと思います。(以下次号→コチラから Link しています)


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