第三回 ■■■■■■■■■■

もう一つの効用、自立安定機能について
 FFが効率の追求というのはわかりやすいのですが、見逃されがちなもうひつの効用について触れておきたいと思います。それはFF独自のキャラクターというべく、人の操縦なしで安定に飛ぶ、自立安定機能です。どんな状況下でも自ら安定を創り出して飛ぶところから、いうなれば飛行ロボットとも呼ぶべき機能ですが、これがあるのでフリーフライトが成立することになっています。実機やラジコン機はもちろん、空を飛ぶ生き物、鳥や昆虫も、そんな機能になってはいません。生き物の意志と動作で安定が創出されるのとは、根本的に違っています。
 FF機のこの而立安定機能が何に利用できるのかといわれても困りますが、如何にも巧妙に仕組まれた飛行ロボットシステムであることは確かです。
 自律安定機能については、あまり踏みこんで書かれたものを見かけず、FF機の安定はこれまで実機の安定理論の流用で説明されているのがつねですが、小生は両者はぜんぜん別物と考えています。これを語るとなると長くなりますが、小生はバルサPLGその他、空を飛ぶもの多種目に手を出して、それぞれの安定問題を始末しなければならない関係上、安定問題にはかねてから関心があり、ひそかに自分流儀のFF自律安定理論も組み立てています。しかし、プロペラからは離れずぎるので、これ以上深入りすることはしません。
 さて、しつこいようですが、もういちどFFとは何かにもどります。FFをやっていて時代の圧力を感じると書きましたが、もうちょっとうまく言いたくて言えない何かじゃないかという気がします。「何やっていますか」「模型飛行機をすこし」「オ、ラジコンですか」「・・・・」
 ま、いいか。FFはずっと昔からこうだったんだ。世間からは隠れたところに咲く男の美学の世界、なんていったら粋がりすぎですか。
 FFはどこに行くのでしょうか。何年ほどか前に、競技機は自作である必要はなくて、他作でも可としたときに、FFはあきらかにアイデンティティーのひとつを棄てました。FFはだんだんにやることがなくなる・・・・操縦を放棄してのうえに、また自己表現の場であることも放棄して。むかしFFは意地と粋がぶつかる男の戦場でした。勘亭流で主翼に大きく屋号(?)を入れたりなんかして。いま技術は進歩した、あきれる程良く飛ぶようになったと、ただそれだけでFFを謳歌する気分にはなれません。老人の懐古趣味で、昔は良かった、面白かったと言うつもりはありませんが、少なくとも今とではおもしろさの質がどうもネとそんな気分ではいるのです。

◆“翼素理論”と“運動量理論”
 プロペラの基本理論に戻ります。プロペラには(1)“翼素理論”と(2)“運動量理論”の両様の考え方があり、複眼的に攻めないと実体をとり逃がすおそれがあると、そこまでを前に書きました。この両理論から、F1Bプロペラの実作に役立ちそうなどんなヒントが引き出し得るかを、小生の理解の範囲でまとめてみます。
(1)翼素理論
 ここではプロペラを回転する翼とみていますから、部分翼素に分解しての扱いとはいえ、基本的には翼理論の応用です。専門書ではここで、翼素ごとの前進角(ピッチに関係する)、進行率(ピッチ直径比に関係する)など、プロペラ基本要素の役割が詳述されていますが、そういうことはプロペラ実技者には考えるというよりは、やらねばならない必須事項として、みんなパスしてしまいます。
 小生が“翼素理論”から有難く頂戴できる最重要のヒントは、プロペラ効率が究極はプロペラ各翼素部分の揚抗比の集合で決まるという指摘で、言葉を変えればプロペラ効率問題は結局、プロペラ各翼素の翼型問題に帰着するという基本認識です。翼型・揚抗比問題となれば、主翼問題と同じことで、F1B機には宿命的な低レイノルズ数空力環境が大きく関わってきます。
 この問題を掘り下げて考えるための基本資料として、ブレード各翼素の揚抗比が、無限大、30,20,10,5と5通りに変化した場合に対応する翼角と翼素効率の関係を第1表に示します。これは山名正夫(水冷「彗星」艦爆の設計者)・中口博著の「飛行機設計論」(養賢堂、まれにみる名著と思います)の184ページのグラフから採りました。

第1表 揚抗比別ブレード角と翼素効率の関係
ブレード角→ 10° 15° 20° 30° 45° 60° 80°
揚抗比 5 42.5 50.0 59.3 65.6 66.6 57.8 マイナス
  ↑ 10 59.3 68.7 75.0 81.2 82.5 78.1 39.0
  ↑ 20 75.0 81.8 85.3 89.0 90.3 88.1 70.3
  ↑ 30 85.9 89.0 91.2 93.7 95.0 92.8 79.6
  ↑無限大 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
※この表の見方は、最上欄が幾何学的な部分翼角、左欄がその場合の揚抗比です。
※ここでの揚抗比は、縦横比効果を考えない(いわゆる2次元翼としての)揚抗比と理解します。


 この表を一覧して、ただちにわかることを列記します。
(a)揚抗比が決まれば、あと自動的に効率も決まります。
(b)当然ですが、揚抗比無限大ならば翼角に関係なく効率100%
(c)翼角45°あたりで働かせるのが最も有利
(d)揚抗比貧弱なら、翼角45°を大きく外れるほど効率が落ちて当然
(e)現実のF1Bプロペラでは、翼角の小さな先端近くが主戦場ゆえ、この部分の揚抗比は特に重要
(f)根本近く(すなわち大翼角部位)はもともとパワー消費が小さいので、プロペラ全体へのこの部位への影響力は小さい。
(g)揚抗比30以上もあれば申し分ないが、F1Bプロペラのレイノルズ数ではまず望み薄20以上はほしいところ
(h)しかし、以上は理想流入角(主翼から迎角に相当)の場合の想定で、急上昇時の高負荷運転では、相当程度割り引いた揚抗比の見積もりが必要かも

 翼素理論からみるプロペラ効率問題は、このように単純明快ですが、この表にある翼素効率は運動利用理論的な配慮、プロペラ面を通過する加速流の後流渦の影響を無視していますから、このまま実際の効率と言うわけではありません。ということで、ここから学びとれる教訓はただひとつ、主力部分のブリード断面には高揚抗比翼型を与えること、これに尽きます。
 さらにつけ加えるなら、翼型の揚抗比に自信が持てない場合には、あまり低ピッチ比プロペラは避けるのが賢明ということでしょうか。
(2)運動量理論
 “運動量理論”は部分翼素がどうなっているかなどにはこだわらない、むしろ大ざっぱな見方です。プロペラ前方の空気をかき集めて公法に送る、空気流の加速器、平たくいえば空気のけとばし器としての見方といっていいでしょう。そしてプロペラに与えられたエネルギーが、どのようにロスなく推進に使われるか、その見方からのみプロペラを見ています。そこで、どういうのが上手な空気流の送り方、効率の良い空気の蹴とばし方かを考えてみましょう。
(a)原理的にプロペラは大口径ほど効率がよい。プロペラディスク(プロペラ回転面を円盤とみなしてこう呼ぶ)が大きければ、大量の空気を動員できるので、同じ推力の発生には空気流の小さな加速ですむ。小さな加速なら、加速に参加しない外周大気との速度差が小さいので、空気分子間のマサツが小さい。空気分子間のマサツはエネルギーを消費してただ熱になるだけ、こういう理屈です。これは固定翼の場合、縦横比の大きい(翼巾の大きい)ほど翼の効力が良いということ、まったく共通する原理です。飛行物体がある空域を通過するとき、なるべく広域の空気分子にわずかつづ協力してもらうのが、周辺空域に与えるストレスが小さい、そういうことでしょう。以上は小生流の理解で、専門的には比較的簡単な数式で証明されます。
(b)プロペラ交流はネジレが少ないほど推進効率が良い。大気中のプロペラ後流に置き換えてみるとよく解ります。岸壁から出航する舟のスクリューを推進機としてでなく、水の攪拌機としてみることもできるほどで、スクリュー回転に与えられたエネルギーの大部分は水の撹拌に消費されて、推進には一部しか利用されていないことがわかります。これを思えば、後流に渦を作らない和船の櫨による推進システムの合理性が納得できます。回転するプロペラで後流渦を作らないということは原理的に不可能ですが、渦を少なくする工夫なら考えられます。要するにプロペラをブン回す低ピッチプロペラ比プロペラはダメということで、ここでさきの“翼素理論”から導き出された結論と、ようやく符合してきます。
(c)プロペラディスクを通る加速流は、等速的に各部位で加速されるのが望ましい。しかしこのこどて、翼素ごとに周速度の違うプロペラ推進システムでは、原理的に非常に難しい要求です。見やすい道理ですが、プロペラディスクの中央部分の空気流は、ほとんど加速されない(加速する方法がない)ので、ドーナツ状にボッカリ穴があいてしまいます。そこを改善したいがために、根本に行くほどブレード幅を広くとって、つまり先細広くとって、つまり先細スタイルにして、いくらかなりとも加速分布の平均かをはかったのが、小生の“へらぶな”タイププロペラですが、これはしかし一方で、主要部翼素のレイノルズ数値下という、模型プロペラならではの返礼を受けました。レイノルズ数効果によほど自由な人力機プロペラでは、みな先細スタイルになっていて、F1Bでもそうしたいところですが、加速流の平均化さえプラスに働くかどうか微妙なあたりにも、F1Bプロペラの特殊性が現れていると感じます。
(d)プロペラディスクの円周部位の空気流は、なだらかに減速して、加速を受けない外周大気にフェードアウトするようにしたい。プロペラ外周部は、周速度最大、パワー消費最大(パワー消費は速度の3乗)で、通常なら加速流速も最大になるはずです。そうなれば外周大気との空気分子マサツによるエネルギー損失の大きさは、ほとんどプロペラ全効率を支配するほどと思われます。そこの対策が先端ブレード幅の縮小と、先端ピッチのしぼり込みですが、やりすぎればこれも効率上のマイナスなので、ここの折り合いをどうつけるかが、プロペラ設計テクニック上のひとつの急所になっています。
 さて以上、“翼素理論”と“運動量理論”の両方から有効なヒントを頂戴したので、高効率プロペラのあるべき姿かたちが、少しづつ見えてきました。しかし理論は理論、現実は現実ですから、これを現場に下ろすには、F1Bプロペラゆえの特殊事情とは何か。すでにでていることですが、ここであらためてもう一度確認しておきます。
(1)曲者ゴム動力パワーとどう折り合うか。
(2)全機重量がぶら下がるという高負荷運転対策。
(3)高粘度低レイノルズ数空域での翼断面問題。 (以下次号→こちらから Link しています)


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