第一回 ■■■■■■■■■■

はじめに
 「ランチャーズ」の紙面を借りて、プロペラとゴムの話を書いてみようと思います。
 話はF1B級(国際級ゴム動力競技機)が中心の予定ですが、特定種目に片寄らない、プロペラ類全般を見通す視点からのプロペラ談義になることを希望しています。
 又、ゴムについては10数年来手当たり次第に特性実測を重ねてきているので、こちらのデータもずいぶんたまりました。事務局から急がないでゆっくりやっていいよといわれているので、話が飛んで寄り道の多い話になりそうですが、さてどうなりますか。
 小生がF1B競技の現役だったのはもう7〜8年ほども前の話ですが、模型飛行機人としての関心はずっと翼型問題とプロペラ問題にありました。翼型問題については1978〜1979年の “モデルジャーナル”誌に“TAMA翼型の研究”というのを書きましたが、プロペラのほうは考えがまとまらないままに、のびのびになっていました。
 “TAMA翼型の研究”もいま省みれば未消化部分が眼ざわりで、後日談を書いて補正しなければいけないなあと感じています。ま、そのことはともかくプロペラ問題のほうは小生にとって難物すぎました。しかし、そうはいっても歳月人を待たずで、人生残り時間が少なくなってみると、これは解っていることだけでも書いておいたほうがいいかなと思えてきたのです。
 話はジクザグに進みますが、お許しいただいきたいと思います。

効率がちがうF1Bプロペラと人力機プロペラ
 退役プレーヤーの眼から見ると、フリーフライト競技が現役時代とはまた違った光景に見えてくるのも事実です。まず、現行のF1B競技がもうまぶしいほどの性能レベルに到達しているように見えます。どうやら小生の退役後に、いちだんと進歩度合いが加速したんではないか、小生などに出る幕はない、と感じるのはそのことですが、プロペラに関してはすでに申し分のないレベルで、この先まだやることがあるのかなと思えてしまいます。
 これは正直な感想で、こういうものは改良努力でどこまでも進歩するかというと、そういうものではなく、どこかで天井につき当たる筈と思うのです。まだ、天井ではないかも知れませんが、固定ダイヤ、固定ピッチ形式のプロペラとして、効率70%を超え。限界効率75%に近ずきつつあるのではないか(可変ダイヤ、可変ピッチプロペラについてはあとで書きます)。小生あれこれの理由から考えて、F1Bプロペラが効率80%を超えるなぞあり得ないと考える者で、私見では効率75%あたりをほぼ上限と見ているのです。
 参考までにこちらも効率追求が至上命令である人力機プロペラとの比較を試みます。
 人力機プロペラでは、一流どころではすでに効率90%を超えていると思われますがこれは、人力機の場合は効率追求上の好条件に恵まれすぎているためです。良い例が1988年。米国マサチューセッツ大チームによる“イダロス88号”の場合です。ギリシャの自転車ロードレースチャンピオンのペタルによるとはいえ、エーゲ海のクレタ島からサントリーニ島に至る118kmの飛行を3時間54分かけて実現したときに、機体もプロペラも機体もプロペラも性能の上限に達し、すでにやるべきことはやりつくされたと感じます。
 それにひきかえ、効率75%あたりがF1Bプロペラの性能上限とは、と思われるムキのために、人力機プロペラとF1Bプロペラの違いを少し掘り下げてみましょう。
 第一が発動機、パワーソースが違います。片や人力によるペダル運転とはいえ、持続するコンスタントパワーですから、これは設計基準が立てやすい。ひきかえ、F1Bのほうはトルク変動のいちじるしい変速パワーですから、どこに基準をおいていいか悩ましい。
 第二に飛行のスタイルが違います。人力機の場合は低速水平飛行オンリーで、しかも地表面(あるいは海面上)すれすれの超低速飛行ときていますから、このときの地面効果(グランドエフェクト)も馬鹿になりません。対して、F1Bではただ高度を稼ぎたい一心の急角度上昇飛行で、両者飛行スタイルの違いは決定的です。人力機プロペラとF1Bプロペラでは仕事の性質が違いますから、効率の考え方自体が違います。F1Bプロペラに求められるのは、重量物を空高く引っ張り上げる起重機にも似た能力ですから、ここでの効率は普通の意味での推進効率ではなくて、ゴムの蓄積エネルギーを高度エネルギーに置き換える、エネルギー変換効率ということになります。ここでF1Bプロペラならではの問題が発生します。最近のF1B機のように垂直に近い急上昇になると、ほぼ全加重がプロペラにぶら下がるかたちになるために、この重負荷運転が効率の障害になるのです。人力機の場合はどうでしょうか。人力機では水平飛行専門ですから、飛行中の空気抵抗分に相当する推力の補給だけで良く、かりに全機の揚抗比を30:1とすれば、全機重量の1/30の推力発生でOKとなります。F1Bでは全機まるごと吊り上げる重労働、条件の違いが理解されると思います。違いの第三は機体サイズの違いによるレイノルズ数の違い、すなわち空力環境の違いです。小さく生まれついたのは模型飛行機の宿命ですから、この空力ハンデはどうすることできません。

◆F1Bプロペラに王道なし
 さて、人力機プロペラとF1Bプロペラの比較で明らかなように。ここに現れた諸点にF1Bプロペラの基本課題が集約されているとみることができます。本記事のメインテーマに関係することですから、あらためてこれら基本課題について、整理認識しておきます。
(1)仕事の相棒ゴム動力パワーとの折合いの付け方
(2)全機丸ごと宙づりという重負荷運転対策
(3)低レイノルズ数空域でのブレード翼断面問題
 F1Bプロペラほどに複雑微妙に入り組んだ問題を扱う場合には、難題の解き方以前に、まず難題をどう立てるかに各人のセンスが現れます。センスの良し悪しというのは、問題の立て方をいうのだと小生理解していますが、ここで先ほどの効率の上限75%が格別の意味合いをもってくるように思います。どういうことかというと、効率75%なら残りの25%は何らかのかたちで捨てられる、大量25%ともなれば捨て方にセンスの違いが現れる筈だと思えるからです。これが効率90%レベルの争いともなれば、そうそう自由な選択はあり得ず、プロペラはほぼワンパターンスタイルに収まってしまします。
 小生は何を言いたいのか。ここで少し早目とは思いますが、誤解を恐れずに勇気を出して結論めいたことを書いてしまいます。いわく、“F1Bプロペラに王道なし” “これぞと言う決定版なし”とこれを言い切ってしまいたい気分に現在の小生はなっています。このあといろいろ書きますが、すべてはこの発言をめぐっての論証になる筈です。
 話はまるで飛びますが碁のほうでは打ち始めの布石の局面で、次の一手にどう打っても1局というのがあります。打つ手はいろいろありますけれども、どれが正解というのはない。もしかして最善手というものがあるかもしれないが、神様ではない人間にはそこまでのことはわからない、そういう意味でしょう。
 F1Bプロペラに正解なし、効率の上限75%と理想効率には遠い事柄の性質上、どうやってもちょぼちょぼ、多様な行き方が共存し得る、プロペラ問題を多年考えあぐねて、現在はその考え方に行きついています。たとえば、大口径プロペラの採用でまっすぐに推進効率の向上を狙うという行き方があります。もちろん正攻法で大正解と賛成したいところですが、反面レイノルズ数の減少というマエナス要素をどうするか、という問題に突き当たります(プロペラ直径とレイノルズ数は二律排反の関係)。そうなると逆方向から考えて、レイノルズ数優先の小径プペラの方針でどうかナとなって、さてここで優劣がわからない。
 またもうひとつの例。ピッチ直径比(ピッチレシオ)が大きいのは推進効率状のプラスと、これはプロペラを知る者の常識です。さてここで急上昇時の重負荷運転がうまくいくか。なにかといえばコケそうなリスクを冒すよりは、いっそ低ピッチ比プロペラを選んで、推進効率の劣化に甘んじても確実な急角度上昇を狙った方が実戦的ではないか。
 その他もろもろの選択がありますが、どの行き方もそれなりに成立し得る。多少性能差はあるかも知れないが、目くじらを立てる程の差ではない。乱暴に言ってしまえばどのやり方もみな正解、ただしくどのやり方も効率75%は超えられない、そう考えてます。

◆いまはなつかしい芝地方式
 正解はひとつに限らない、やりかたはいろいろあるとなれば、気分的にはずいぶんラクになります。それは今だからいえるので、現役時代はそうではなく、まぼろしの正解手を求めた時期がありました。小生の方針は一発主義、つまり機体一気にプロペラ1セットで、つねに一発狙いでキメことに賭け、数を作って取りかえひっかえ試すことは考えません。設計には関係ありそうな諸要素を考えつく限り洗い出して、これに優先順位を与え、それぞれプラス効果とマエナス効果を勘案して落としどころを探ります。(以下次号→ここから Link しています)


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