◎ 名前:大村和敏
◎ 作成日:2013.3.10(日) 13:14
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 上昇競技用ゴム動力ＦＦ機の設計の問題点  
上昇競技用ゴム動力ＦＦ機の設計の問題点
高度や上昇を得点とするゴム動力ＦＦ機の競技方法を、いくつか提案してみました。
次は、目的とする得点や性能、つまり高度獲得や上昇性能を最高にするＦＦゴム動力機は、どのような形になるか、導き出す理詰めな方法論が必要で、それを模索することが楽しみの始まりになります。
現在、滞空用ゴム動力機の設計は完成の域にあり、言い換えれば最適の形に収斂・画一化して、老化・制度疲労に至っている状況です。
実のところ、上昇高度は滞空競技でも最重要性能です。（滞空時間＝上昇高度／沈下速度）ですから、上昇高度を「メートル」という単位長で測って評価する代わりに、「沈下速度」という「単位長」で測って評価した、一種の高度競技であるという解釈も可能なのです。
ただし、「沈下速度」という単位長は、機体の仕様、たとえば翼面積・縦横比・翼型などによって変動します。これらの仕様の影響は、上昇性能と滑空性能（沈下速度）と逆に効く場合があるので、互いに制約され、妥協する必要があり、手放しで上昇性能のみを追求することは出来ません。
それでも、未知の機種である「上昇競技機」の最適形を目指して設計を始めるにあたって、急上昇型の滞空競技機に見られる上昇に関する知見・ノーハウは有用・貴重であり、出発点に使えます。
ゴム動力の出力は、「バースト」、「クルーズ」の�△弔両�態に区分されます。
バースト期は、動力ゴム巻き戻り初期の巻き数１/４くらいの部分で、トルクは平均の数倍、初期回転数は２倍、初期出力（プロペラの推力）は１０倍くらいになります。
クルーズ期は、巻き数の後半��/４くらいの部分で、トルクは総平均の８０％前後で、緩やかに低下していきます。
動力ゴムがこのような出力変化をするために、ゴム動力機の一般的な上昇パターンは、バースト期の直線的な急角度上昇に、クルーズ期の浅い角度の旋回上昇が続く形になります。ただし、両期の間に中途半端な不安定期間があり、時としてズッコケなどのトラブルを生じます。
現実のゴム動力滞空競技機の上昇飛行は、この様なトルク・回転速度・出力が大幅に異なる期間を、スラストラインや翼のねじりなどの飛行調整、ＶＩＳ・可変プロペラなどの操作によって、両期の損失が最小になるように妥協させてうまく連続させたものといえます。
上記のような動力ゴムのトルク変動は、ゴム動力機の宿命で、きわめて扱いにくい動力特性ですが、１００余年の研究と試行錯誤によって効率的な扱い方が煮詰められ、トータル効率はかなり高くなりました。
上昇競技において、扱いにくい動力ゴムを高い効率で推力に変換するための知見・ノーハウは、滞空競技機で長年にわたって開発・蓄積されたものを利用できます。
それでは「高度競技機」としての設計とは、どの点に関わるものでしょうか？
筆者は、主翼面積・翼型の選択が、滞空競技機と違うと考えます。
滞空競技の枠組みでは、主翼面積は滑空性能を良くすることを目的に選択・決定されます。一般的には翼面荷重を少なくすれば沈下速度は減りますから、なるべく大きい主翼面積が選択されます。
また、クルーズ期の上昇飛行は、滑空時の釣合いに近いので、沈下速度の少ない大翼面積のほうが上昇率も良くなります。
然るに、バースト期のように垂直〜急角度上昇の場合は、主翼の揚力は飛行に貢献せず、主翼は抗力だけ発生する邪魔者です。だから、終始垂直に近い上昇を行うＦ１Ｃ級エンジン機では、主翼を折り畳んで面積を大幅に減らす手法がとられています。
従って、バースト期に高度を稼ぐためには、主翼面積は小さくして抗力を削減すべきです。同時に、滑空性能が悪化しても、抵抗の少ない薄いフラット翼型やＬＤＡ翼型を使うべきです。
上昇競技機では滑空・沈下速度の要求から来る、主翼面積を大きくする方向の制約はなくなりましたが、クルーズ上昇には大きな主翼のメリットが残り、上記のバースト期の条件と矛盾します。そうなると、主翼面積の上昇性能に対する影響を定量的に求めて比較して、適当な翼面積を求めざるを得ないことになります。
其の場合、「バースト/クルーズ」というアバウトで定性的な区分ではなく、連続的に変化するトルクに基づく出力・推力と機体の重量の比率（馬力荷重）の時間変化が問題になります。馬力荷重が一定値以上のときに、一定上昇角度以上の急上昇になり、主翼が邪魔になる領域になり、それ以下の時は主翼の揚力が上昇に貢献するのです。つまり、モーターラン経過中に、馬力荷重の変化に対応して、主翼面積の損益分岐点があるのです。
ある重量の束のゴム動力の馬力荷重の時間変化曲線は、モーター・ランによって長さが変化し、上下にシフトして、上述の損益分岐点も時間軸方向に移動します。プロペラを小さくし、あるいはゴム束を太くすれば、モーターランが短縮され、損益分岐点はモーターランに相対的には後ろに移動します。
たとえば、室内機は極端な長モーターランですから、主翼面積が邪魔になるような領域はスタート時のバースト以上のトルクのときになり、現実には存在しません。これに対して、極端にモーターランを短く設定すれば、モーターランの大部分が損益分岐点以上のトルク・馬力荷重になるでしょう。
極端に短いモーターランでは、その牽引速度に機体が追随できず、飛行効率が低下しますが、滞空競技機の上昇条件よりモーターランを短縮して高速化することは、上昇競技機の枠組みではメリットがありそうです。
筆者のヤマカンですが、上昇競技機の設計として、滞空競技機に比べて主翼面積を縮小し、抗力の小さい翼型を使い、モーターランを短縮するアプローチは、試してみる価値がありそうです。
小池勝先生の、ゴム束のトルク特性に出発して、プロペラ仕様から効率や推力を計算して、機体の空力特性との関連から上昇率を求めるパソコンのプログラムを使えば、上記の損得がわかり、最適翼面積にたどり着く可能性はありますが、それではかえって「上昇競技」の老化を早めることになるのかも知れません。
以上のような、一定量の動力ゴムの蓄積エネルギーを使った上昇過程を、レーザー距離計で追跡して、最大上昇高度を測定し比較する上昇高度競技を、上昇性能を純粋に測定する枠組みである故に「純・上昇高度競技」と呼んでおきます。
次回に取り上げる、荷重を積んで一定の高さの障害物を飛び越えるゴム動力機の上昇競技は、動力ゴムの出力の使い方が部分的・戦術的であり、飛行パターン・飛行調整法も戦術的でさまざまな可能性があるので、「応用・上昇高度競技」と分類しておきます。（続く）
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