◎ 名前:大村和敏
◎ 作成日:2013.7.28(日) 15:54

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「厚翼のライトプレーン」考

いわゆる「ライトプレーン」の翼は、一般に丸断面の竹ひごの前縁・後縁と、それを結合するリブに張られた1枚の膜(紙など)で構成される片面翼である・・・・・というのが通念でした。

この構造の起源は、1908年のイギリスに始まる最初の模型飛行機ブームの主役であったA字型機です。胴体も棒材で、動力ゴムは外側に露出搭載されています。後世、このような構造を持つ模型機は「スティック(機)」と呼ばれます。
それに対して、1928年から始まったウエークフィールド杯国際競技(現在のF1B級の起源、W級)は、「動力などを内蔵する胴体を有する形式」と規定されています。これは上記の「スティック」に対立する形式で、「キャビン(機)」と呼ばれ、両者は模型飛行機の形式の二大区分となります。
スティックとキャビンの違いは、
    「機体構造の内部に空洞があるかどうか」
だと思います。逆に言えば、全体が中実(むく)構造の模型飛行機が「スティック」です。


ライトプレーンに相当する機種が初めて公式規定に登場したのは、1940年ころに発布された「帝国飛行協会(現在の日本航空協会JAAの前身)模型航空機記録規定」のA級です。「ライトプレーン」という名称は当時は使われず、「棒胴・ゴム露出」という属性だけ規定されていました。

以降、ライトプレーン相当種目は、MAFJの少年規定のA級を経由して現行のJMA規定に到るわけですが、すべてにわたって厚翼(中空構造の翼)を排除する条文・文言は含まれていません。だから、法律家に上記の規定文を読んで解釈してもらえば、「厚翼ライトプレーン」は合法です。

然るに、現実には厚翼ライトプレーンは排除されていました。それには当該時代の技術的な限界と、模型飛行機の分類に対する通念があったと思います。
1940年時点の帝国飛行協会規定制定は、国(文部省・軍部・模型界・模型業界など)がはじめた全国的な(軍事・科学教育をも目的とした)模型飛行機教育の一環でした。現実に作られた「ライトプレーン」は、国民学校教材として生産されたキット1000万機/年の大半を占め、竹ひごの片面翼構造でした。指導層も「スティック機」の通念があり、「厚翼ライトプレーン」という発想は出難くかったと考えられます。
ただし、当時は実機の翼型座標・空力特性が、NACA(NASAの前身)などの航空研究所から発表され始めた時代でした。だから上級のモデラーは、これらの翼型特性を出発点として模型機を設計することが、正則な手順と考えました。
しかしながら、当時の主流翼型はクラークY、NACA6409、NACA6412、RAF32、エッフェル400など12%厚前後の極厚のもので、臨界R数は高く、ライトプレーンのR数のときの性能はかなり悪いものでした。加えて、バルサ材が使えなかったので重くなり、工数が多く工作も困難であったので、試行はありましたが、大多数を占めた竹ひご片面翼に割り込む余地はなかったわけです。

このような社会環境から、1940〜45年の模型飛行機が国民学校で教育された期間、ならびにその余韻といえる1960年ころまでの年少者のキット機が主流であった期間は、規定条文に明文化されていなくても、自然に、暗黙のうちに厚翼のライトプレーンが排除されたと考えられます。
私見としては、帝国飛行協会の規定を作るときに、A級〜の個別規格の前にスティックとキャビンの大別規定(空洞を持つ構造かどうか)を挿入しておけば、この期間の機体制限条文と現実が整合・一致して、後世の混乱に至らなかったと思います。


他方、戦後(1945〜)になり、模型飛行機独自の空気力学の研究が進みました。
1930年代に、前述の翼型を含む多数の翼型の、実機の使用条件における特性が発表され、モデラーはそれを基礎にして模型機を設計しました。一応、性能計算は可能で、滑空比がどれくらいで、何分滞空するか、数値がでます。
ところが、実際に飛ばしてみると、実機では優秀な高性能翼型を使っても、計算の半分も飛ばないことが明らかになりました。要するに、模型機は小型で低速ですから翼のR数(定数×飛行速度×コード長)は実機より何桁も低く、翼面の流れは異なる状態になったわけです。
以降、実機のデータは鵜呑みにできないことが明らかになり、模型機の翼をそのまま、模型機の飛行速度で測定してCLやCDを求めるようになり、結果も蓄積されました。

この種の模型飛行機の空力特性測定の、最初の信頼できる文献として、ドイツのF.W.シュミッツ博士の「模型空気力学」があります。第2次世界大戦中に、模型飛行機教育のために行われた研究ですが、戦後に出版されて当時の前衛派のモデラーのバイブルになりました。
本書によると、R数が低く(小型・低速)なると厚い翼型の性能は低下するが、薄い翼型はそれほど低下しないので、小型・低速機は薄翼が有利になります。
同書では、普通の翼型ゲッチンゲン417の中心線の上下に各に1.5%の肉付をした、厚さ3%の湾曲板翼型を測定しています。これはライトプレーンの片面翼に近いものですが、低R数の性能はきわめて優秀です。
また、F1B級などフリーフライト種目では、1950年くらいまでは前述の12%厚翼型が多数派でしたが、以降は薄翼化が進み、現在では6%くらいが普通になっています。現在のF1B級のR数は3万台ですが、もっと小型低速なライトプレーンは2万台になります。だから、厚さがゼロに近い片面翼の使用は相性がよく、厚翼よりも正しい選択だと考えられます。
ちなみに、1955年ころ、もっとも先進的といわれた旧ソ連のマトベエフは、恐ろしく手間のかかる特殊構造を使って、厚さ2%くらいのライトプレーンに近い翼型のF1B機を作りました。スパン50cmのライトプレーンならば竹ひごで容易に作れる超薄翼ですが、それをスパン1.2m超のF1B級で使うとなると、大変なことになりますが、性能を追求するとそれが必要であったのです。

このような低R数に適合する片面翼などは、いままでライトプレーンくらいしか使い道がなかったので、風洞実験などの本格的測定の対象になりませんでした。然るに、地球以外の水蒸気の多い大気を持つ惑星ではR数が低くなるので、飛行探査機の翼にはそういう翼型が必要といわれます。
鳥人間競技等などもあり、低R数の測定能力のある風洞もあちこちの大学にそろってきたようですから、片面翼の特性の正確な測定も期待できそうです。そうすれば、普通の厚翼に比較した優劣が正確に判定できるようになるでしょう。

以上のような低R数翼型に関する知見から、空力性能に関する限り、ライトプレーンから故意に厚翼を排除する必要性は薄く、放置しても自然に淘汰されるようにも思えます。
ライトプレーンの翼構造の規制に関する議論は興味深く拝読しておりますが、上記のような歴史や知見を踏まえて深めていただけば有意義と存じます。

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